よくわかって役に立つ

痴呆症のすべて

改訂第2版

よくわかって役に立つ 痴呆症のすべて 改訂第2版
著 者
編集 平井俊策(群馬大学名誉教授)
発行年
2005年7月
分 類
内科学一般・老年医学
仕 様
B5判 336頁 図94(写真39) 表99
定 価
7,980円(本体7,600円+税5%)
ISBN
4-8159-1726-4
特 色
 痴呆症(認知症)について最新の情報を分かりやすく提供し支持を得てきた本書が,最近の研究成果,進歩した概念(軽度認知機能障害,MCI),診断(脳アミロイドの画像化の試み,アルツハイマー病の診断マーカーなど),治療薬(ワクチン療法)などup-to-dateな内容を盛り込み改訂版として内容を一新.必ず役立つ痴呆の診療・介護の指針書.

■ 序 文

改訂第2版 序にかえて〜痴呆研究の新しい歩み

序にかえて〜 本書が世に出たのは日本で最初の抗痴呆薬がやっと認可され,介護保険がスタートした頃であったが,それから早くも5年の歳月が流れた。幸いにも本書は痴呆についての最新のまとまった書物として歓迎されたが,このほどよりup-to-dateな内容を盛り込んだ改訂版ができあがった。この5年間の新しい歩みを振り返ってみると,まず軽度認知機能障害(mild congnitive impairment;MCI)という概念の普及がある。
 この病態の概念自体は決して新しいものではないが,抗痴呆薬の登場によって早期治療がある程度まで可能になったという背景が,この病態に対する関心を高めたためと思われる。同時により早期の診断のために新しい画像や診断マーカーへ要望が高まり,その研究も進歩した。機能画像の進歩は,特に脳血流SPECTの三次元統計画像にみられ,さらにアミロイドの画像化も試みられつつある。このためにこの改訂版ではMCI,脳アミロイドの画像化の試み,アルツハイマー病の診断マーカーなどに関する項目を追加した。
 治療面においてはドネペジル以外のコリンエステラーゼ阻害薬などがいくつか登場し欧米では承認されているが,わが国ではまだ承認されていない。その他いろいろな方面から抗痴呆薬の開発が行われているが,特記すべき治療法としてワクチン療法がある。この治療法は動物実験では優れた効果が確認され,ヒトを対象とした治験が開始されたが,途中で副作用として髄膜脳炎が発症することがわかり中止された。その後,わが国では経口ワクチンが開発され,これは注射ワクチンと異なりこのような副作用がみられないことから,ヒトに対する治験が期待されている。ワクチン療法についても現状解説のためにこの版では新しい項を設けた。
 ところで,現在最も問題になっているのが痴呆という名称の問題である。この名称が差別用語であるという声があるとして,昨年厚生労働省は委員会を設けてこの問題の審議を依頼し,その結果行政用語としては「痴呆(症)」という名称を廃して「認知症」と呼ぶこととし,マスコミなどにもこの名称の使用を要請した。行政用語としてはもちろん,多くのマスコミなどでは既に「認知症」という名称が使われている。この名称には関連する学会での異論が多いが,行政用語と学術用語の不一致は不便との声もあり,学会でこの用語を使うか否かは今後の問題として残されている。現在の状況から学術書である本書が「認知症」という名称をすぐに使うのは時期尚早との考えと,本書が改訂版であることなどから,本書では初版と同様に「痴呆」という名称を用いることにしたことを御了承頂きたい。
 内容を一新したこの改訂版が,初版と同様に痴呆(認知症)の診療・介護に従事される医師やコメディカルの皆様に広く読まれ,お役に立つことができれば執筆者一同の大きな喜びである。

■ 主要目次

1 痴呆とは何か

 痴呆とは
 痴呆の特徴
 痴呆と意識障害の区別はどのようにして行うか
 代表的な原因疾患と症状の特徴

2 痴呆はどのような病気で起こるか

 DSM-IVによる痴呆性疾患
 CD-10による痴呆性疾患
 痴呆を示す疾患と,その有病率・痴呆化率
 初老期痴呆の原因
 老年期痴呆の疫学調査
 痴呆の臨床病理研究
 主要な痴呆性疾患

3 痴呆と間違えられやすい状態

 良性老人性もの忘れと加齢に伴う記憶障害
 軽度の意識障害
 うつ病性仮性痴呆
 薬物・アルコールによる痴呆様状態
 生来性の知能発達障害
 神経生理学的徴候

4 痴呆の前駆状態とは―MCや類縁状態を中心に

 MCの概念とEBM
 MCの診断における客観的マーカーの信頼性の比較
 アルツハイマー病に進行しないで安定した経過をたどるMC

5 痴呆に伴う精神症状と行動異常

 痴呆でみられる精神病理学的症状および症候群
 アルツハイマー病の非認知症状管理

6 痴呆はどのくらい多いか―有病率,痴呆性高齢者数を中心に

 調査方法
 1990年以前の痴呆の有病率
 痴呆性高齢者数とその将来推計
 精神科病院における痴呆患者数
 その他の施設における痴呆性高齢者数
 近年(1990年以降)の痴呆の有病率
 血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆の割合

7 痴呆の診断はどのように進められるか

 臨床症状の捉え方
 痴呆症候群の鑑別診断
 痴呆性疾患の鑑別診断
 痴呆と記憶障害―アルツハイマー病の早期診断

8 痴呆の評価にはどのようなスケールが使われるか

 認知機能障害を測定するための尺度
 日常生活動作能力(ADL)を測るスケール
 痴呆の行動の障害を測るスケール

9-A 痴呆の画像診断―ルーチンな画像診断を中心に

 血管性痴呆
 アルツハイマー型痴呆
 非アルツハイマー型変性性痴呆
 治療可能な痴呆

9-B 痴呆の画像診断―脳アミロイド画像化の試み

 アミロイドイメージングのもつ可能性
 アミロイドイメージングの原理
 PET,SPECT用プローブの開発
 プローブ候補化合物の紹介
 アミロイドイメージングの臨床応用
 今後のプローブ開発の方向性

10 アルツハイマー病の診断マーカー

 CSF Aβ42
 CSF total tau(t-tau)
 CSF Aβ42とtau
 CSF p-tau
 MCとCSFマーカー
 血漿Aβ

11 痴呆性高齢者のケア

 痴呆性高齢者の理解
 好ましい接し方
 日常生活への援助
 行動障害(精神症状や問題行動)への対応

12 痴呆への社会的対策にはどのようなものがあるか

 社会的対策―その内容と問題

13 痴呆と介護保険

 介護保険とはどのような制度なのか
 介護保険制度における医師の役割
 居宅療養管理指導とは

14 痴呆の家族介護者への対応と支援

 家族介護者の実態
 介護負担の要因と対応
 在宅介護への支援

15 痴呆性高齢者の人権

 人権侵害の内容
 人権の内容
 人権保障の仕組み

16-A 痴呆の薬物療法 対症的薬物療法の実際

 痴呆症を治療するとはどういうことか
 対症療法の実際

16-B 痴呆の薬物療法 抗痴呆薬開発の現状

 抗痴呆薬の概念
 痴呆症状分類と治療薬の開発
 抗痴呆薬市販以前の痴呆症の薬物療法
 アルツハイマー病の成因論と治療薬開発の流れ
 世界で市販中のアルツハイマー病に対する抗痴呆薬
 本邦で開発中のアルツハイマー病に対する抗痴呆薬
 将来のアルツハイマー病に対する抗痴呆薬開発の戦略

16-C 痴呆の薬物療法 アルツハイマー病のワクチン療法の試み

 痴呆性疾患と今日の日本
 アルツハイマー病の発見
 SchenkらのAβ抗原とアジュバント
 Wenerらの経鼻投与ワクチン
 Bardらの受動免疫ワクチン
 ヒトでの治験
 ワクチンの機序
 Aβの抗原エピトープ
 経口ワクチンの開発

17 痴呆症のリハビリテーション―経時的アプローチ

 リハビリテーションの特徴
 リハビリテーションの技法
 経時的アプローチ
 リハビリテーションの効果と課題

18 痴呆の予防はどこまで可能か

 血管性痴呆
 アルツハイマー病(アルツハイマー型老年痴呆)

19 アルツハイマー病とは―最近の知見から

 アルツハイマー病の概念の変化
 アルツハイマー病のアミロイド・カスケード仮説
 アポリポ蛋白E4
 プレセニリン
 タウ蛋白アイソマーと神経変性
 リン酸化タウと神経細胞変性

20 血管性痴呆とは―最近の知見から

 血管性痴呆は皮質下性痴呆
 皮質下性痴呆とは
 血管性痴呆の「痴呆」の定義
 血管性痴呆の分類と病態
 血管性痴呆の発生頻度
 血管性痴呆の早期診断のポイント
 画像診断(CT,MR)
 脳循環代謝
 血管性痴呆の経過
 血管性痴呆の予後
 治療・看護と日常生活管理の注意点

21 非アルツハイマー型変性性痴呆とは

 レビー小体型痴呆
 ピック病
 進行性核上性麻痺
 皮質基底核変性症
 嗜銀性顆粒痴呆
 その他のタウオパチー
 前頭側頭型痴呆
 ハンチントン病と歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症

22 治療可能な痴呆

 治療可能な痴呆とは
 痴呆と一過性せん妄
 治療可能な痴呆の原因疾患
 治療可能な痴呆
 厳密には痴呆とはいえないが治療可能な疾患

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