臨床腫瘍内科学入門


臨床腫瘍内科学入門
著 者
編集 金倉  譲(大阪大学教授)
発行年
2005年11月
分 類
癌・腫瘍一般
仕 様
A4変型版 354頁 図136 表118
定 価
10,500円(本体10,000円+税5%)
ISBN
4-8159-1732-9
特 色
癌治療の基礎的解説,各診療科における最新治療を紹介するとともに,「抗癌剤の適正使用ガイドライン」・「精神的ケア」・インフォームドコンセントの取り方」の項目を特に設けた.臨床腫瘍内科医を専攻する医師や抗癌剤治療専門医を目指す医師にとって必要な知識をほとんど網羅,各領域の第一線の専門家の手による確かな指針が示されている

■ 序 文

 20世紀の半ばから増加しはじめた癌はとどまることを知らず,現在では死亡原因の約1/3を占め,本邦では年間約30万人が癌で死亡している.また,将来の癌による死亡数,罹患数を予測すると2020年には2000年の約1.5倍に増加すると推測され,癌は今以上の脅威になると考えられる.一方,癌研究者もこれを看過していたわけではなく,癌研究は分子生物学が応用可能となった1980年台の初頭から本格化した.その結果,多数の癌遺伝子,癌抑制遺伝子が同定され,これらの分子の機能が詳細に明らかにされてきた.これらの分子はそれぞれ癌治療における主要な治療標的と考えられ,21世紀の癌治療は分子標的療法の時代といわれ,従来の画一的な化学療法とは異なった新たな癌治療に期待が寄せられるようになった.実際,この数年の癌治療の進歩には目を見張るものがあり,従来の抗癌剤に加えてImatinib,Rituximab,Trastuzumabなどの分子標的療法剤が臨床の場で広く使用されるようになり,その有効性が確認されつつある.このように癌治療におけるEBM(Evidence Based Medicine)がリアルタイムで書き換えられつつある現状において,適切な治療法を選択するのは極めて難しく,専門家の集う学術集会においてもしばしば意見の食い違うところである.いわば豊かさ故の混沌の時代というのが現在の癌治療の状況である.
 一方,癌治療においてはこの10年のうちに患者さんの立場,心情が極めて重用視されるようになってきた.インフォームドコンセントの必要性は言うまでもなく,セカンドオピニオンの重要性が認められるようになり,従来はホスピスの仕事と考えられた精神的ケアまでもが一般の臨床腫瘍医に求められる時代となってきた.残念なことに,こういった方面の教育は放置されてきたといっても過言ではないのが現状であり,今後何らかの教育システムの構築の必要と考えられる.
 昨今,抗癌剤の使用量の間違いなど本来あってはいけないような医療事故がしばしば新聞を賑わすのを目にする.このような間違いが起こるのは,癌治療に素人の医師が見よう見まねで化学治療を行うからである.癌治療には,抗癌剤の作用機序,副作用,副作用対策などの確固とした基礎知識と豊富な臨床経験が必要とされる.抗癌剤治療は専門家が行うべきであるという観点から,現在,日本臨床腫瘍学会,日本癌治療学会,日本癌学会の3学会が中心となって共通したカリキュラムのもとで教育がおこなわれ,認定医,専門医制度が確立されようとしている.今後,この制度が確立されることにより,現在野放し状態の抗癌剤治療が,専門家のもとで行われることが期待される.
 本書では,抗癌剤の基礎知識,分子標的療法剤の作用機序など全診療科領域にわたる癌治療の基礎知識を解説すると共に,各診療科領域における最先端の癌治療を紹介することにより臨床腫瘍学を系統立てて,しかも奥深く学べるように各項目を設定した.また,「抗がん剤の適正使用ガイドライン」という項目を設けることによって,医師の自己満足ではなく,患者のためになる化学療法がどういった治療であるのかを解説いただいた.更に,「精神的ケア」,「インフォームドコンセントの取り方」などの項目を設け,臨床腫瘍医に必要な医療技術・知識以外の対人関係における心遣いやコミュニケーションの取り方についても重点をおいて,本書を構成した.
 本書一冊に臨床腫瘍内科医に必要な知識はほとんど網羅されており,しかも,それぞれの項目を各領域の一線の専門家の方に執筆いただいたので,本書は極めて充実した内容となっている.本誌が臨床腫瘍学を専攻とする内科医師に有用となるだけでなく,本誌を読んで「癌と闘う!」という強い意志をもって臨床腫瘍学を専攻しようという医師が現れることを願ってやまない.

■ 主要目次

I. 腫瘍内科学の進歩と変遷


II. 抗がん剤の作用機構
1. 一般的抗がん剤の作用機序と分類
2. 多剤併用化学療法の原理:併用効果と副作用の分散
3. 非特異的免疫療法剤(サイトカインとBRM)
4. ホルモン療法 
5. 薬剤耐性機構とその克服


III.がん治療における放射線療法の現状と今後の展望
―単独治療あるいは内科的外科的治療との併用について―


IV. がん治療の最前線と今後の展望
1. 分子標的療法
 1) 総   論
 2)シグナル伝達阻害剤   (1) チロシンキナーゼ阻害剤
   a. Iressa , ZD1839
   b. Imatinib(STI571)グリベック
  (2)  ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤
  (3) プロテアソーム阻害剤
 3) モノクローナル抗体
 4)がん血管新生を標的とする薬剤
 5)HDAC阻害剤
 6)COX-2阻害剤
 7)CDK阻害剤
 8)マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤
2.造血器腫瘍に対する造血幹細胞移植術の現状と展開
3.固形腫瘍に対する同種造血幹細胞移植術
4.免 疫 療 法
5.遺伝子治療
6.RNAを標的としたがん治療の可能性
6. テーラーメード治療
 1)マイクロアレイ解析の臨床応用:診断,薬剤感受性,予後推定における研究
 2)抗がん剤の効果・副作用に関連する薬剤代謝酵素・トランスポーターの遺伝子多型性


V. 化学療法時の注意点
1.副作用:各薬剤特有の副作用とdoselimiting factorについて
2.高齢者に対する化学療法
3.臓器障害時の化学療法
4.支持療法の実際
5.治療関連二次発がんの危険性


VI. がん患者のQOL向上のために
1.インフォームドコンセント:病名の告知と予後の告知
2.精神的ケア
3.緩和医療:疼痛コントロールを中心として
4.在宅治療および在宅フォロー
 1)外来治療の条件
 2)外来での化学療法の留意点
 3)末期がん患者の在宅ケア(在宅ホスピスケア)
5.出産への配慮


VII. がんの予防と早期発見
1.がんの予防
2.がん検診の意義と問題点


VIII. 化学療法の実際
1. 成人白血病
2.悪性リンパ腫
3.肺 が ん
4.食 道 が ん
5.胃 が ん
6.結腸・直腸がん
7.肝 が ん
8.膵 臓 が ん
9.乳 が ん
10.皮膚悪性腫瘍
11.小児の白血病と悪性リンパ腫
12.骨軟部腫瘍
13.泌尿器がん
14.婦人科がん
15.頭・頸部がん
16.脳 腫 瘍
17.がん性腹膜炎,がん性胸膜炎


IX. 抗がん剤の適正使用ガイドライン
1. 総論: EBMに基づくがん化学療法
2. がん治療のcontroversy
 1)食道がんの治療選択:経皮的局所療法 vs. 外科的切除
 2)肝臓がんの治療選択:経皮的局所療法 vs. 外科的切除
 3)乳癌に対する大量化学療法の有用性について
 4)胃がん,大腸がんに対する術後補助化学療法の必要性について

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