図説 ARTマニュアル 改訂第2版

図説 ARTマニュアル 改訂第2版
著 者
編集:森  崇英(京都大学名誉教授)
著 者
編集:久保 春海(東邦大学 教授)
著 者
編集:岡村  均(熊本大学 教授)
発行年
2006年6月
分 類
産婦人科学
仕 様
A4版
定 価
15,750円(本体 15,000円+税5%)
ISBN
4-8159-1754-X
特 色
初版発行から4年間の生殖医療技術の進歩と体外受精学の展開,見えてきた課題と安全性への検証を,生殖医療のエキスパートがその知識と技術レベルを集大成して解説する.圧倒的ボリュームとサイエンスに裏づけされた技術を網羅し,ARTの現場で確かな指針を与え,疑問や困難な場面では解決する糸口を必ず導きだしてくれるART決定版である.
改 訂 序

 平成14年に出版された本書の初版は,当代ARTに関する科学知識と技術の集約,治療理論と実践の融合,それに生殖医療従事者各層への情報提供を目的として企画されたもので,幸いにも順調に江湖に迎えられ初期の目的を達成しました.

 初版以来3年半が経過しましたが,この間の体外受精学は依然としてその進歩の勢いに衰えを見せていないものの,生殖プロセスの各ステップを追うような広がり方ではなく,むしろそれぞれのステップの技術を深化するような進歩であるとの印象を受けます.これは学術の発展の動向としては自然で健全なものと,内心悦ばしく受け止めております.

 この間の進歩を要約しますと,新規で先鋭的な展開として,未受精卵や卵巣組織の凍結保存,調節卵巣刺激におけるリコンビナントFSHやGnRHアンタゴニストの本格的応用,体外成熟の有効性の向上が挙げられますが,背景理論はまだ完全ではなさそうです.未解決の持ち越し課題としては,加齢に伴う卵巣予備能低下への対応,PCOSに対しては代謝症候群として捉えるより,ARTでは卵の質の劣化症候群として捉えた上での対応を優先しなければなりません.また,着床前胚診断(スクリーニング)と関係して生殖遺伝学の知識も早晩必須となるでありましょう.

 他方,体外受精学の安全性に関する検証が必要な課題も提起されています.配偶子形成や胚培養過程におけるゲノム・インプリンティング異常が起こる可能性,単絨毛膜性2卵性双胎,ART出生児の長期の生後発育調査などであります.これらの検証課題はこれまで見過ごされた,あるいは光が当てられなかったARTの暗部であり,その解決はARTの健全な発展に欠かすことの出来ない問題であります.

 ARTという生命科学技術の進化のためには,このような課題を着実に解決していかなければなりません.そのためにはやはりサイエンスつまり体外受精学の進展を期すことが必要です.そこでこのような現状認識に立って,改訂第2版では次の3つの方針で企画しました.すなわち,コメディカルに関する項目は別途「コメディカル ARTマニュアル」という姉妹編として独立させること,過去4年間の進歩を取り込むための必要項目を大幅に増加すること,新規項目,持ち越し課題,検証課題と直接間接に関連した体外受精学のトピックについての解説項目を設けること,であります.この解説項目ももっと増やしたかったのですが,本来はARTマニュアルですので必要最小限に止めました.こうして増えた項目に対しては,最も適切と考えられる専門家に執筆をお願いしました.

 改訂第2版はA4判の2段落としで,内容とともに装いもあらたに登場します.内容的には医師あるいは生殖科学研究者向けとなりましたし,項目によってはかなり高度で難解なところもあろうかと思います.しかし,サイエンスの裏打ちのない技術は脆く再現性に乏しいものですので,本書がARTの現場で遭遇した疑問を解決する糸口を見出し,また読者の方々ご自身の発想の助けとなることを信じております.

 最後になりましたが,お忙しいなか原稿をお寄せ頂いた執筆者の方々に衷心より感謝申し上げます.

平成18年4月吉日

編者 森  崇英
   久保 春海
   岡村  均

■ 主要目次

第1章 総   論

1.ARTの歩みと生殖医療上の意義
2.生殖の生命倫理
3.ART研究の動向
4.非配偶者間ARTの実施体制−厚生労働省方式−


第2章 卵巣刺激と採卵

1.卵胞発育,排卵と卵成熟の基礎知識
2.クロミフェン周期
3.GnRHアゴニストを用いた調節卵巣刺激
4.GnRHアンタゴニストを用いた調節卵巣刺激
5.ゴナドトロピン単独療法
6.卵巣刺激の補助療法
7.採 卵 法


第3章 配偶子と受精

1.受精の基礎知識
2.体外受精と顕微授精
3.精子の処理と評価
4.卵の体外成熟(IVM)
5.配偶者間人工授精(AIH)
6.非配偶者間人工授精(AID)
7.精子の凍結保存−未婚の場合も含めて−
8.卵子・卵巣組織の凍結保存−未婚の場合も含めて−


第4章 胚 発 生

1.着床前胚発生の基礎知識
2.胚のクオリティ評価
3.胚生検法
4.胚培養の基礎的理解
5.胚の凍結保存


第5章 着   床

1.内分泌・免疫複合系による着床の調節
2.分割期胚移植
3.Sequential mediaを使用した胚盤胞(胞胚)移植
4.共培養による胚盤胞(胞胚)移植
5.二段階胚移植
6.着床期子宮内膜の評価
7.着床促進法
8.Implantation windowを考慮した胚移植
9.孵化補助法(AH)
10.胚移植法の変遷
11.GIFTとZIFT


第6章 多嚢胞卵巣症候群

1.多嚢胞卵巣症候群の概念規定と検討課題
2.非ART周期における排卵誘発
3.ART周期における調節卵巣刺激
4.PCOS卵子の質はなぜ悪いのか
5.OHSSの病態と対策
6.外科療法とART療法との使い分け


第7章 難治性不妊に対するART

1.加齢不妊とlow responder
2.子宮内膜不全
3.子宮内膜症
4.子宮筋腫と子宮腺筋症
5.反復体外受精不成功
6.骨盤内感染症とART


第8章 多   胎

1.多胎妊娠の疫学とその対策
2.一絨毛膜二羊膜性双胎妊娠の問題点と対策
3.二卵性一絨毛膜性双胎とキメラ症−双胎形成における異常−
4.家畜における単絨毛膜性双胎


第9章 男性不妊

1.精子形成の基礎知識
2.男性不妊とその治療指針
3.抗精子抗体
4.閉塞性無精子症に対するART
5.造精機能障害の病態と治療
6.無精子症の診断と治療の流れ
7.射精障害


第10章 不   育

1.不育症の基礎知識
2.不育症の特殊検査
3.抗リン脂質抗体症候群
4.同種免疫異常と原因不明反復流産
5.子宮奇形に対するART
6.不育症治療における漢方療法


第11章 生殖遺伝学

1.生殖遺伝学の動向
2.ヒト精子・卵子の染色体異常
3.ヒト配偶子と胚の染色体異常
4.遺伝子診断法
5.精子形成関連領域と遺伝子
6.着床前診断と着床前胚スクリーニング
7.着床後出生前診断


第12章 生殖補助医療の周辺

1.子宮内膜症の病態と発生病理
2.早発卵巣不全
3.卵形成の分子機構
4.顆粒膜細胞の局所内分泌学と卵成熟
5.莢膜細胞の局所内分泌学と卵成熟
6.妊娠の免疫調節
7.生殖医療の漢方療法『効かせる漢方』
8.性の出生前選択
9.ARTと鍼灸
10.性同一性障害と生殖医療


第13章 生殖医学研究のあした

1.クローン技術とARTへの応用
2.ES細胞の生殖医療への応用
3.卵細胞質移植と核置換
4.環境ホルモンと生殖医療
5.生殖・発生とエピジェネティクス
6.性分化の遺伝子調節


付   録

1.生殖補助医療関連の法規と学会指針
 A.日本産科婦人科学会指針(抜粋)
 B.日本不妊学会指針
 C.クローン技術規制法
2.生殖医療に必要な主要薬剤一覧
 A.無 月 経
 B.無排卵周期症
 C.黄体機能不全
 D.GnRHアナログ
 E.体外受精とホルモン剤
 F.漢方製剤

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