周産期母児の脈波学的研究

周産期母児の脈波学的研究
著 者
著:三上 正俊(青森敬仁会病院 部長)
著 者
著:鍵谷 昭文(弘前大学 教授)
著 者
著:澤井 通彦(青森敬仁会病院 院長)
著 者
著:丹野 恒明(青森慈恵会病院 院長)
著 者
著:鈴木 雅洲(東北大学名誉教授)
発行年
2006年7月
分 類
産婦人科学・臨床検査診断学
仕 様
B5判
定 価
2,940円(本体 2,800円+税5%)
ISBN
4-8159-1757-4
特 色
分娩における母体と児の心血行動態・循環力学を定説を覆す内容で平易に解説した「分娩時母児の心血行動態−容積脈波の分析から」の姉妹書.周産期の脈波学的研究を収集し,綿密な推論と考察,脈波でなければ得られないユニークな所見を提出する.実際に分娩に立ち会う医師に,難解と思われている脈波学理論のエッセンスを身近なものになるよう概念と診断の方法を分かりやすく解説する.多くの産婦人科医に手にしていただきたい.
序   文  血圧測定は,初心の看護師に至るまで必ず習得すべき技術であり,心電図と並ぶ二大循環機能検査法であり,Vital signとしても体温,呼吸,意識とともに基礎を成すものである.  そして,心電図が心臓の電気現象をみているのに,血圧は心臓を含む循環系の血行動態,力学をみる.両者の役割は違うのであり,臨床的にどちらか一方が他方に優るというものではない.しかし,血圧は普通は耳で測るから,もし眼で診断できれば耳や指とは比較にならぬ多くの正確で貴重な情報を得られるだろうとは,医師なら誰でも考えるし,事実もその通りなのである.にもかかわらず,無数の心電図研究者に比し,脈波研究者の数はあまりにも少ない.  その理由はいろいろあるが,何と言っても最大は理論が非常に難解なことが挙げられる.血圧は圧力であるから,精密には微分,積分で解説される.脈波学も肝心な要点はすべて微分方程式で説明されており,それも2〜3個でなく30個近い方程式である.もちろんそれが最も簡潔,正確な表現法であるが,読む方は大変で,特に産婦人科医師には堪ったものでない.いくら有用と言われても知らないものには手は出せない.しかし近道はある.せいぜい6〜8個の波形の意味さえ把握すれば脈波学の半分を歩いたことになり,産婦人科医師にとっても全く身近なものになる.もう一つは,これは実用性が非常に高いが,「§5 産科出血性ショック時の脈波」を読み返して戴けばすぐに納得されるところで,要するに脈波による診断は,波形の識別と波高(振幅)の変化の2つ,ただそれだけである.理論の難解さに比し,診断はあっけないほど単純である.  過日,帝王切開術時の癒着胎盤用手剥離による出血で産婦が死亡し,医師は逮捕されたとマスコミが大々的に報じた.何か敵将を召捕ったかのような,われわれ医師には歓迎されざる賑々しさである.しかし,癒着胎盤は自然分娩でもかなり危険な,時として致命的合併症ながら,その時点にならなければ発見できないから全く厄介である.若い人の突然の事故死は真に痛ましいが,産婦人科医師の立場からは,前記事故は不可避的に近く,日本産科婦人科学会が異例の抗議文を発表したのは当然である.そして,われわれはここで容積脈波を改めて提唱したい.§5に詳述したように,ショックの診断は何よりも血圧であるが,容積脈波は血圧(圧脈波)よりはるかに早期に危険を診断できるし,予後の判定もはるかに正確である.この差は本質的,かつ決定的なものであるから,多くの出血死を防ぐ切り札的検査法として採用,利用すべきと考える.  また,脈波にはやはりある程度の方程式は必要である.過去にも周産期脈波の研究はかなり多いが,その多くは得られた成績をそのまま述べているだけで,綿密な考察や推論を重ねた傾向はない.Herbert CM,et al(1958)の成績は,われわれが足元にも及ばぬほどに膨大,正確であるのに,推論内容はそれほどでない.たとえば,妊婦の拡張波の出現率はほぼ半数に近く,正常波と二分されるほどであるが,Poiseuilleの定理によれば,粘性のある液体が流れる管内の流量は,管半径の4乗に比例するから,これが増加した母体の心拍出量,循環血液量への決定的な適応であるのはすぐに理解される.「血液ドロドロ」,「血液サラサラ」とは最近ブームの健康食品広告にのって人口に膾炙しているが,妊娠貧血は流量には単に逆比例するだけである.また,分娩時のValsalva maneuver,Starlingの法則,産褥婦や新生児のOhmの法則によれば説明にはやはり便利である.  本書は文字通り「周産期の脈波学的研究」を収集したものであるが,分娩時については検討すべき量も多く,内容も難解と思われたので,特別に「分娩時母児の心血行動態−容積脈波の分析から−」,および英訳して「Maternal and Fetal Cardiovascular Hemodynamics at Parturition−From the Viewpoint of Plethysmographic Analysis−」として以前に出版した(三上正俊・鍵谷昭文ら:永井書店,2004年.英文は2005年).これらは日本,アメリカの大学医学部産婦人科の全部に贈呈したので,少なくとも日米両国においては「激しい陣痛時に母体の心拍出量は増し,血圧も上昇する」と信じる医師は1人も居なくなったと期待したい.  今回の妊婦,褥婦,新生児についても,脈波でなければ得られない多くのユニークな所見を提出したつもりである.そのなかでも「§4 周産期母児循環系の適応の法則−産科学と進化論を結ぶ−」は各項目のエッセンスをごく簡略化したものであるから,脈波に初心の方はまずこの項目から読まれるようにお勧めしたい.これは一部の人類学者の関心を得ているが,現在まで医学者からの異論,反論は出ていない.しかし,脈波による以外は非常に到達困難な概念と思われる.  本書の出版にあたり,大変に困難なお骨折りを戴いた永井書店編集部をはじめ,関係の方々に心からの感謝の意を表するものである. 2006年6月 著者

■ 主要目次

§ 1 妊婦の心血行動態 指先容積脈波の分析から  I. 従来の定説   1.心拍出量Cardiac outputの増加/2.全血液量の増加と血液凝固能の亢進/3.心拍数/   4.血圧/5.体温/6.末梢抵抗の減少/7.静脈圧の変化/8.子宮血流量の増加/   9.縮期時相systolic time interval(STI)  II. 指先容積脈波による妊婦心血行動態の検討   1.Herbert CM,et al.(1958)の業績/2.波形の分類/3.パラメータ値による検討/   4.体位移動による波高,心拍効果,心力係数の変化/5.子宮位置移動との比較  III.妊婦心血行動態の適応理論   1.妊婦の拡張波/2.妊娠末期の心拍出量の減少と心筋収縮力の低下  IV.まとめ  V. 優位に立つ女性 § 2 褥婦の心血行動態  I. 産褥婦波形の特徴   1.褥婦の正常波/2.産褥婦の異常波  II. 加圧脈波による検討   1.反応性充血reactive hyperemia/2.上腕加圧脈波adpresso-PTG  III.産褥時異常波の理論   1.プロゲステロンの急減/2.分娩時の熱源喪失/3.坂口,根本,清川らの報告  IV.産褥時の心機能  V 褥婦の適応理論とmaternity blues § 3 新生児の心血行動態  I 症例と記録法  II.第1グループ   1.波形/2.波形の検討/3.波高/4.縮期昇脚時間up-stroke time(UT)/   5.新生児波形の適応理論/6.胎児脈波/7.波形の加齢変化  III.第2グループ   1.微分脈波pulse derivative,速度脈波velocity PTG(VPG)/   2.微分脈波による切痕の決定/3.パラメータ値の検討  IV.第3グループ    縮期時相systolic time intervalの決定  V 微分脈波による縮期血圧測定  まとめ § 4 周産期母児循環系の適応の法則  産科学と進化論を結ぶ  I. 「ヒトは胎児のまま生まれる」  II. 胎児循環の仮説  III.妊   婦  IV.分 娩 時  V.産 褥 時  VI.新 生 児  ま と め § 5 産科出血性ショック時の脈波  I. 出血の脈波学的理論  II. 症   例  III. 微分脈波の採用

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