実践 小児外傷初療学
初期対応と緊急処置

著 者
編集:益子 邦洋
￿￿￿(日本医科大学救急医学 教授)
編集責任:
￿￿武井 健吉(日本医科大学千葉北総病院救命救急センター)
発行年
2008年6月
分 類
救命・救急医学 小児外科学
仕 様
B5判・370頁・270図・84表・写真181
定 価
(本体 9,500円+税)
ISBN
978-4-8159-1807-1
特 色
 「小児は小さな大人ではない」
 小児救急医療の現状が主に内科的な対応であり,重度外傷児童が専門の小児外科医・整形外科医にアクセスするシステムが未整備なために,小児外傷診療体制の必要性が強く叫ばれているいま,日常的に小児外傷の診療に携わっている専門医が,その持てる知識を凝集させて解説した実践的小児外傷学である.
 防ぎえた外傷死(PTD)の研究結果から,内容を初期診断,初期治療に焦点を絞り,全身の損傷状況を如何に評価し,呼吸・循環を含めて全身を如何に管理するかという視点でから項目を構成し,さらに重度小児外傷における重症頭部外傷の合併頻度の高さにも着目して,予後を決定する中枢神経集中治療に関しても多くの頁を割いている点に本書の最大の特色がある.
 突然の事故や災害により生命の危機に瀕した小児を一人でも多く救うために,小児救急医,小児集中治療医はもとより,初期診療に携わる一般の医師の方々に広く活用していただきたい必携書である.

●序  文●

 「小児は小さな大人ではない。」
 この言葉は小児医療に従事している医師にとってはごく当たり前の常識であるが、成人を主たる診療対象としている救急医には十分理解されていないのが現状である。
 従来、小児救急医療という言葉は主として内科的救急を指しており、それ故、小児救急の専門家と称される医師の殆どは、小児に対する内科的対応の専門家である。
 わが国には小児外科医や小児整形外科医と称する専門医集団が存在するが、残念なことにこれまで、重度外傷を負った児童が彼らにアクセスする仕組みは余り整備されてこなかった。また、全国に小児専門病院や小児集中治療室が整備されているものの、小児の重度外傷例を積極的に受け入れ、治療している施設は極めて数少い。
 結果として、重度小児外傷の診療はこれまで、主として成人を診療対象とする救命救急センターが担ってきた歴史がある。
 わが国における不慮の事故による死亡は、全年齢層では死因順位の第5位であるが、1〜9歳の小児では第1位であり、平成19年における15歳以下の交通事故負傷者数は79,620人、死亡者数は133人であった。わが国は、世界で最も低い新生児死亡率を誇る一方で、1〜4歳児の死亡率は先進国のなかで最も高い。この事実は前述した小児外傷診療体制の不備と決して無関係ではない。
 医療システムとしての小児外傷診療体制の必要性が叫ばれ、実践的な小児外傷学について解説したテキストが求められる所以である。
 厚生労働科学研究をはじめ、防ぎえた外傷死(Preventable Trauma Death; PTD)に関するさまざまな研究の結果、PTDの発生要因の3分の2は医療機関の初期診療にあることが明らかになった。このような研究結果に着目し、本書では初期診断、初期治療に焦点を絞り、全身の損傷状況を如何に評価し、呼吸・循環を含めて全身を如何に管理するかという視点で項目立てを行った。更に、重度小児外傷においては、重症頭部外傷の合併頻度が極めて高く、これに対する診療の成否がしばしば予後を決定する。それ故、初期診療からは若干離れるが、中枢神経集中治療に関しても詳述していただいた。
 各項目の執筆者は、小児外傷の診療に日常的に携わっている新進気鋭の医師諸君である。
 本書が小児外傷診療に従事する救急医、小児救急医、小児集中治療医等に広く活用され、突然の事故や災害により生命の危機に瀕した小児の命が一人でも多く救われ、後遺症が軽減することを切に願ってやまない。

日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター
益子 邦洋

■ 主要目次

I 小児外傷学総論

1 小児外傷の疫学
  1. 小児外傷の疫学/2. Preventable Pediatric Trauma Death/3. Pediatric Trauma Center
2 わが国の小児外傷医療の現状
  1. 予防/2. 病院前救護体制/3. 施設/4. 学会などの組織
3 PALS
  1. PALSとは/2. 小児外傷初期診療におけるPALSの意義/3. 小児外傷防止の観点/4. 小児外傷搬送の観点/5. 小児外傷診療と死の受容/6. PALSトレーニングコースについて
4 JATECTM
  1. JATECTMの必要性/2. JATECTMの基本概念/3. 患者収容前準備/4. Primary surveyと蘇生/5. Secondary survey/6. 転送の判断
5 JPTECTM
  1. JPTECTMにおけるload and goの概念/2. JPTECTMにおける現場活動の流れ/3. JPTECTMの状況評価における小児外傷の特徴と注意点/4. JPTECTMの初期評価における小児外傷の特徴と注意点/5. JPTECTMの全身観察における小児外傷の特徴と注意点
6 小児外傷の解剖学的特徴
  1. 気道/2. 頭部,顔面/3. 頸部・脊柱/4. 胸部/5. 腹部・骨盤/6. 四肢/7. 皮膚 
7 外傷初期診療において知っておくべき生理学的特徴
  1. バイタルサインと体重/2. 呼吸器系/3. 循環器系/4. 体温/5. 中枢神経系
8 緊急度・重症度評価
  1. 緊急度評価/2. Pediatric Trauma Score/3. 小児外傷チェックリスト/4. 重症度評価
9 小児の呼吸不全とショック
  1. 呼吸不全/2. ショック


II 小児外傷学各論

1 頭部外傷
  1. 病理学的変化/2. 画像診断/3. 頭部ならびに頭蓋内病変について/4. 頭蓋底骨折・陥没骨折の治療/5. 頭蓋内圧亢進の治療/6. 長期予後について
2 顔面外傷
  1. 創傷/2. 顔面骨骨折
3 胸部外傷
  1. 小児胸部外傷の疫学/2. 小児胸部外傷の臨床症状—小児外傷症例で胸部外傷を示唆する理学的所見/3. 小児胸部外傷各論
4 腹部外傷
  1. 受傷機転から推測される腹部臓器損傷/2. 主要症状と見逃してはならない損傷/3. 初期診療における基本的治療戦略/4. 初期診療におけるピットフォール/5. 診療所における初期診療と転送のタイミング
5 四肢・骨盤外傷
  1. 小児骨・軟部組織の解剖学的特徴 /2. 小児四肢・骨盤骨折の分類 /3 上肢の損傷/4. 下肢の損傷/5. 骨盤損傷/6. 被虐待児症候群(Child Abuse Syndrome)
6 脊椎・脊髄外傷
  1. 小児脊椎・脊髄外傷概論/2. 受傷機転から推測される損傷/3. 主要症状と見逃してはならない損傷/4. 初期治療における基本的治療戦略/5. 初期治療におけるピットフォール/6. 診療所における初期治療と転送のタイミング/7. 小児期に特有な脊椎・脊髄外傷
7 広範囲熱傷
  1. 受傷機転から推測される損傷/2. 主要症状と見逃してはならない損傷/3. 初期治療における基本的治療戦略/4. 初期治療におけるピットフォール/5. 診療所における初期治療と転送のタイミング
8 重症頭部外傷における小児集中治療
  1. 背景/2. 病態生理/3. 重症頭部外傷の集中治療


III 必須基本手技

1 気道管理
  1. 小児の気道の特徴/2. 気道確保の必要性/3. Primary survey(一次評価)/4. 酸素投与法/5. 気道確保法/6. 輪状甲状靭帯穿刺(needle cricothyroidotomy)
2 頸椎保護
  1. 頸椎損傷の疫学/2. 小児頸椎の解剖学的特徴/3. 頸椎固定/4. 頸椎損傷に対する対応,治療
3 胸腔穿刺・胸腔ドレナージ
  1. 適応/2.合併症/3. 準備物品/4. 手技の実際/5. よくある失敗と失敗しないためのコツ
4 末梢静脈路確保
  1. 適応/2. 禁忌/3. 合併症/4. 準備物品/5. 手技の実際/6. よくある失敗と失敗しないためのコツ
5 骨髄輸液
  1. 適応/2. 禁忌/3. 合併症/4. 準備物品/5. 手技の実際/6. よくある失敗と失敗しないためのコツ
6 心嚢穿刺,心嚢開窓法
  1. 適応/2. 準備物品など/3. 手技の実際/4. 処置後の確認と管理/5. よくある失敗と失敗しないためのコツ
7 緊急開胸・大動脈遮断
  1. 小児における緊急開胸の適応/2. 合併症/3. 準備物品/4. 手技の実際/5. よくある失敗と失敗しないためのコツ


IV 外傷初期治療

1 モニタリング
  1. 基本事項/2. バイタルサイン/3. 呼吸心拍モニター/4. パルスオキシメトリ/5. 呼気炭酸ガスモニタリング(カプノメトリとカプノグラフィ)/6. Glasgow Coma Scale(GCS)/7. 頭蓋内圧モニタリング/8. その他
2 Fluid resuscitation
  1. 外傷初期診療におけるfluid resuscitationの位置づけ/2. Fluid resuscitationの実際
3 外傷初期治療に必要な緊急薬剤とその投与量・投与法
  1. 蘇生薬・循環作動薬/2. 鎮静薬/3. 鎮痛薬
4 外出血に対する緊急処置
  1. 分類/2. 止血の実際—一時的止血法/3. 止血の実際—永久的止血法
5 骨折・脱臼に対する緊急処置
  1. 小児の骨折・脱臼の特徴/2. 小児骨折の治療—総論/3. 小児骨折の治療—各論
6 血管外傷に対する緊急処置
  1. 初期治療/2. 救急室もしくは手術室での止血の実際/3. 実際の手術手技/4. 術後フォローアップ
7 動脈塞栓術(TAE)
  1. 小児の特徴/2. TAEの適応/3. TAEの実際
8 緊急開胸,開腹手術の適応
  1. 適応/2. 症例
9 軽微な(生命にかかわらない)外傷の管理
  1. 鈍的頭部外傷/2. 熱傷/3. 動物咬傷


V 小児外傷を取り巻く諸問題

1 海外の小児外傷診療システム
  1. わが国の現状/2. 海外の現状—トロント小児病院での経験から/3. 海外のシステムを,いかにわが国の救急医療体制に活かすか—アドボカシーの観点から批判的にみた,わが国の小児救急医療
2 事故防止
  1. 小児の死亡原因の第1位は不慮の事故/2. それぞれの事故の概要と防止策
3 小児虐待(非偶発的外傷)への対応
  1. 小児虐待の定義/2. 虐待の初期対応の原則/3. 身体的虐待を疑う外傷所見と検索/4. 原因不詳の乳幼児突然死と虐待
4 予後不良児の家族への対応
  1. 家族への対応の重要性と目標/2. 家族の反応/3. 家族への対応
5 小児集中治療室(PICU)の現状と課題
  1. PICUとは何か/2. 日本でのPICU整備の現況/3. 小児外傷診療とPICU/4. 静岡県立こども病院の取り組み
6 医療機関の連携
  1. 欧米の小児外傷診療/2. わが国の小児外傷診療/3. 小児外傷診療における救命救急センター,小児医療施設の利点と欠点/4. わが国の実状に沿った小児外傷診療システムの構築/5. 医療施設の連携における問題点

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