よくわかる ウツタイン統計データ 解析早わかり

著 者
田久 浩志(中部学院大学 教授)
発行年
2008年7月
分 類
￿  救命救急医学・医療統計学
仕 様
A5判・118頁・123図・25表
定 価
(本体 2,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1809-5
特 色
 救命士による解析で社会復帰の向上を!
「データ入力」「集計」から「ウツタイン統計の活用」までをわかりやす解説する.


●はじめに●
 メディカルコントロール(MC)の枠組みの中で、プレホスピタルケア体制充実に向けた種々の取り組みが行われています。この試みは産業界での業務改善の活動を継続的に推進する手法であるQC活動で用いられているPDCAサイクルにほかなりません。
 PDCAサイクルでは、はじめに“Plan”として具体的方法を「計画」し、次に“Do”として実際の活動が「実行」されます。その後、現状の問題点を抽出して「評価」(“Check”)を行い、一連の活動の「改善」(“Activate”)を図り、次のPDCAサイクルへとつなげていきます。
 ここで重要になるのはCheckとActivateの部分です。従来は、MC協議会の場で「ある年の院外心肺停止症例の社会復帰率が前年に比べ5%から11.9%へ6.9ポイント上昇したから、現行のプロトコールで改善が図れた」などといった単純な議論とそれに基づく活動がしばしばみられましたが、これを客観的に評価するには統一したデータ様式であるウツタイン様式を用いた統計学的データ検証が必要となります。
 ウツタイン様式のデータは1991年、Cummins ROらの報告で院外心肺機能停止症例を対象とした記録様式としてのデータとして報告され、わが国でも病院前心肺停止の救急医療の定量評価の方法として用いられるようになりました。しかし、地域の救命率という数値目標を掲げるためには、地域住民のデータを対象として自分たちの手で具体的な数値解析を行う必要があります。しかし、ウツタイン様式のデータが大規模に収集されても、救急救命士が自分たちの手で解析を行う具体的な解析手法についての報告はあまりありませんでした。この現状を考慮して、本書はExcelを用いて現場の救急救命士が実用的な解析を行う基礎的な手法について解説しました。
 解説に用いた練習用のウツタイン様式のデータは、愛知県の消防署検証担当官・検証管理者講習会のトレーニング用として作成したものです。このデータはウツタイン様式のデータを基準とし、実際に愛知高度救急救命作業部会で使用しているデータ様式を参考にしましたが、特殊な項目のデータの扱いは極力排除しました。
 本書ではデータの記録、検査、加工、結合、集計、グラフ作成はもとより、統計学的検定であるカイ2乗検定とt検定の基礎を解説しました。それとともに、救命救急の論文で必須のロジスティック回帰分析の原理を解説しました。一方、筆者が使用しているSAS社の統計解析ソフトのJMPを用いてウツタイン様式のデータを扱う方法を示しました。そしてJMPで多変量ロジスティック回帰分析を行う方法も示しました。
 本書でこれらのデータを用いて演習をすることで、各消防本部のデータ検証の担当者が自分たちの手で自分たちの地域事情を考慮しながら定量的な解析をし、より高い救命率を目指せると考えます。

平成20年7月吉日
田久浩志


●「日本救急医学会のウツタイン様式」の定義
  (2007/10/1 日本救急医学会のホームページより)
ウツタイン様式
 院外心肺機能停止症例を対象とした統一された記録方法であり、国際的なガイドラインとして推奨され広く受け入れられている。ガイドライン策定のため1990年に最初の会議が開催されたノルウェーの修道院の名にちなんで“ウツタイン”と名づけられた。種々の用語の定義や時刻・時間など心肺機能停止の記録には欠かせない時間的要素について厳密に定義されている。ある地域で一定の期間に発生した院外心肺機能停止症例数を求め、蘇生率に関する比較研究のためのテンプレートに従って細分化していく。特に心原性心肺機能停止に焦点を当て、心停止目撃の有無、初期心電図の種類、バイスタンダーCPRの有無、心拍再開の有無というように一定の条件を満たす症例数を絞り込んでいき、最終的には1年生存率を求める。特に初期心電図では心室細動(または無脈性心室性頻拍)に注目し、除細動までの時間は大きな意味をもつ。統一された記録により複数地域における院外心肺機能停止症例の救命率から救急医療システムの質を比較できる。また同一地域において、新しい救急システムを導入する前後の効果を比較できる。

●本書の使い方●
 本書は、ある程度はウツタイン様式のデータを知っている方を対象に書いてあります。ウツタイン様式の基礎的な知識を得たい方は、巻末にある参考文献を見てください。
 読者の方は本書を使う前にWordでの文章の作成や、Excelによる数字や文字の入力に慣れて半角と全角の切り替え、入力の文字の修正が自由にできるようにしておいてください。

 集計の初心者の方は、できれば、自分の地域のウツタインデータをExcelで入力するなり、Accessから移送するなりして用意してください。それをもとに解析をすればより効果的な学習ができます。そして「1.データ入力の前準備」から「6.ウツタインテンプレートに基づいて集計しよう」までの操作を行ってください。そうすれば基本的な集計のノウハウは身に付きます。

 集計の中級者の方は「7.データを比較しよう」から「8.表を検索、結合、加工する」までをマスターしてください。自分の地域の年度ごとの比較や、2つの表を結合したより高度な解析手法が身に付きます。

 統計の初心者の方は「9.カイ2乗検定とt検定」を読んでください。本当に初めて統計を勉強する方はカイ2乗検定がある程度、理解できれば結構です。t検定を使うのはあまり機会がないかも知れません。

 統計の中級者の方は「10.ロジスティック回帰入門」を読んでください。救急関係の学会発表で精密な検定をしたいときにロジスティック回帰が必要となりますが、その原理をここで解説しています。しかし、最初はオッズ比はこのようなものか、といった程度の理解でかまいません。

 業務で集計と統計を効率的にしたい方は費用は少しかかりますが、SAS社の統計ソフトのJMPでの解析をお薦めします。Excelに比較すると数十倍効率的に解析ができます。そのためには「11.JMPによるデータ解析法」を読んでください。都道府県のメディカルコントロール(MC)協議会で地域全体のウツタインデータを解析するときなどにJMPは役立つでしょう。それとともに論文投稿をするときには「12.JMPによるロジスティック回帰分析」を参考にしてください。多変量ロジスティック回帰分析をJMPで行うときの実際の手順を示してあります。

 すべての方に「13.グラフや表でプレゼンしよう」をお薦めします。Excelの集計表からグラフを作成しWordやPowerpointで利用する方法が書いてあります。これらのノウハウは職場での口頭発表のときにすぐに役立つでしょう。

●データの入手について●
 本書で用いた練習用のデータは「練習用ウツタインデータ.xls」と「ウツタインJMPデータ.JMP」の2種類です。このデータは、筆者の所属する大学のホームページからダウンロードできるように配慮しました。巻末の略歴を参照して所属の大学名を確認し「大学名 田久 練習用ウツタインデータ」で検索してください。

■ 主要目次

1 データ入力の前準備
 全角と半角の区別
 テンキーパッド使用時の注意
 迅速なデータ入力
 タブキーの利用
 おかしな表示になったとき
 日付と時間の表現に慣れよう
 Excelの計算に慣れる
 時刻入力の裏技

2 データ入力の実際
 練習用ウツタイン様式データについて
 実際のデータの入力
 ドロップダウンリストの活用
 時刻データの入力と注意点
 時間データの計算

3 データをチェックしよう
 フィルタ機能によるチェック
 並べ替えによるチェック

4 データを加工しよう
 シリアル値を作る
 日付から年、月、曜日を抽出する

5 データを集計しよう
 ピボットテーブルの利用
 グラフの作成

6 ウツタインテンプレートに基づいて集計しよう

7 データを比較しよう
 消防本部ごとの時間データの比較検討
 中央値、平均90パーセント値を求める
 求めた範囲からグラフを作成する
 時間に関する累積曲線の作成

8 表を検索、結合、加工する
 表を検索する
 表を結合する
 数値の範囲を検索する
 連続量の集計を行う

9 カイ2乗検定とt検定
 検定とは
 棄却検定法入門
 検定手法の選び方
 カイ2乗検定入門
 カイ2乗検定の課題
 t検定入門
 t検定の例題
 多重比較
 尺度の変更
 例数はどれくらい集めるか

10 ロジスティック回帰入門
 相対危険度
 オッズ比
 例題
 オッズ比とロジスティック回帰
 変数が1つの場合
 変数が複数の場合
 対数と指数のメモ

11 JMPによるデータ解析法
 JMPへのデータの移送方法
 クリップボードを経由する方法
 ファイルメニューからExcelのファイルを開く方法
 実際のデータの読み込み
 解析の例
 一変量の分布
 ニ変量の分布
 分割表の解析例
 一元配置の解析例
 要約した数表の作成
 グラフの作成

12 JMPによるロジスティック回帰分析
 新規変数の設定
 二変量による未調整のオッズ比の求め方
 調整したオッズ比の求め方
 変数の選択とモデルの検討
 オッズ比の解釈

13 グラフや表でプレゼンをしよう

 Excel 2003によるグラフの作成
 グラフの種類の変更
 グラフの体裁を整える
 グラフのタイトル、ラベルを記入する
 Excel 2007によるグラフの作成
 グラフをWord、Powerpointで利用する
 Excelの表を貼り付ける
 Powerpointの裏技
 まとめ
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