子どもの成長と発達の障害−早期発見を見極めるために

著 者
著 桃井真里子(自治医科大学小児科教授・同とちぎ医療センター長)
発行年
2009年4月
分 類
￿  小児科学一般 母性保健・小児保健・育児学
仕 様
A5判・256頁・19図・38表
定 価
(本体 2,600円+税)
ISBN
978-4-8159-1836-1
特 色 
 本書は, 成長と発達の診療を熟知した小児科・小児神経科専門医と臨床心理士が懇切に解説し, 子どもたちの成長と発達の問題をできるだけ早期に見極めるキーポイントを教えてくれる. 子どもに接するすべての職種の方々にとって必携の書.

●序   文●

 子どもの成長とその問題、発達とその問題は、急性疾患のように明確な異常所見で顕れることが少ないために、気づいたときには問題がより大きくなっていたり、二次的問題が発生していたりすることもしばしばです。そのため、成長、発達の問題で受診される子どもたちの中には、それ以前に発見されたかも知れない健康診査や医師の受診などさまざまな機会があっても、「様子をみましょう」「ただ元気なだけでしょう」「男の子だからそのくらいの行動は正常範囲でしょう」「そのうち大きくなりますよ」という対応で通り過ぎてきた子どもが少なくありません。その間、親は子育てに不安を抱え、時には自分の育児を責め、子どもを叱責するなど、結果として不適切な対応になっていることも見受けられます。
 成長や発達に問題があると、養育する親の不安は増大し、親の不安は親子関係にも影響しますし、第一、時間とともに不可逆的に進行する人間の成長と発達の問題は、後になってからでは対応できないことも、また対応が極めて困難になることも多々あります。子どもたちの成長と発達の問題は急性疾患となんら変わりありません。問題の把握は早期であればあるほどよいのです。早期に問題を見極めて適切な診断・対応と支援がなされることで、子どもにも最大限の利益を与え、養育者にも安心と納得の子育てが提供できます。
 本書は、子どもたちの成長と発達の問題をできるだけ早期に見極めて、問題が見逃されることなく適切な支援がなされることを願って、子どもに接するすべての職種の方々に子どもの成長と発達の問題の見極め方のキーポイントを提供したいという思いからつくりました。成長の問題、発達の問題は、時間をかけて顕在化することが多いために、その早期発見にはある種のコツが必要です。
 本書は、子どもの成長と発達の診療に熟練している小児科専門医、小児神経科専門医と臨床心理士とが日頃の診療の経験を思う存分活かして、目の前の子どもの問題の所在が具体的にみえてくるように、という意図で執筆頂きました。通読して頂くのもよいし、問題に関係する章だけをお読み頂くのもよいですし、また、業務の傍らに置いて頂き、常にガイドブックのようにご覧頂くのにもお役に立つと思います。医師、看護師、保育士、保健師、教師をはじめ、子どもに接するすべての職種の方々にお使い頂き、日頃の子どもたちの問題ができるだけ早期に把握されるようにと願っています。子どもたちにどのような問題が診断されようと、早期に適切な支援があることは、その後の子ども自身の問題を最小限にしますし、その後の育児の不安も最小限にします。成長と発達にさまざまな問題をもつ子どもたちが本書をお使い頂く皆様によって早期から適切な治療や支援が受けられ、たくさんの幸せな時間を過ごせますようにと執筆者全員、心から願っています。

 平成21年4月吉日
編者 桃井 真里子

■ 主要目次

I 子どもの成長のみかた

CHAPTER1 成長評価に必要な事項と測定法
 ・身長,・体重,・胸囲,・頭囲,・腹囲,・上腕径,前腕径,・大腿径,下腿径,・皮下脂肪厚
CHAPTER2 成長の評価法
 1.日本人小児の成長データからの評価
 2.成長速度からの評価
 3.成長指数による評価
 4.二次性徴の評価法

II 子どもの成長の問題

CHAPTER1 体重の問題
 1. 体重増加不良
 2. 体重減少
 3. 肥満
CHAPTER2 身長の問題
 1. 低身長
 2. 高身長
CHAPTER3 頭囲の問題
 1. 大頭症
 2. 小頭症
 3. 頭の形の問題
CHAPTER4 二次性徴の問題
 1. 思春期早発
 2. 思春期遅発

III 子どもの発達のみかた

CHAPTER1 発達の標準
 1. 運動の発達
 2. 探索・操作の発達
 3. 言語の理解,表出の発達
 4. 社会性・行動の発達
 5. 食事・生活習慣の発達
CHAPTER2 正常発達のバリエーション
 1. 成長の正常バリエーションと判断する大まかな基準
 2. 運動発達の正常バリエーション
 3. 精神発達の正常バリエーション
CHAPTER3 低出生体重児の発達のみかた
 1. 修正月齢
 2. 成長
 3. 発達フォローアップの概要
 4. 各時期における留意点

IV 発達障害を疑うとき

CHAPTER1 年齢と症状
 1. 7〜8か月での症状
 2. 1歳半での症状
 3. 3歳での症状
 4. 5歳での症状
 5. 小学校低学年での症状

CHAPTER2 症状と問診・観察
 1 発達の遅れ
  1. 発達の個人差
  2. 軽度の発達の問題を示す「発達上,気になる子どもたち」
  3. 発達の遅れを疑う
 2 言葉の遅れ
  1. 聴力障害による言葉の遅れ
  2. 発語に関する運動系の障害
  3. 非言語性コミュニケーションの発達
  4. 言葉の理解と表出の障害
  5. 発語に遅れがなく,会話に問題がある場合
  6. 1歳6か月健診での言葉の遅れの見つけ方
  7. 3歳前後の言葉の遅れの見つけ方
 3 コミュニケーションの問題
  1. 会話が成立しない
  2. 反響言語(エコラリア,オウム返し)がある
  3. 独り言がある
  4. 言葉の使い方に問題がある
  5. 発語の調子に問題がある
  6. 非言語性のコミュニケーションに問題がある
 4 対人関係の問題
  1. 対人関係に問題のある子どもたち
  2. 対人関係の発達とその問題
  3. 対人関係の問題と疾患
  4. まとめ
 5 多   動
  1. いわゆる「多動症候群」の子ども
  2. 落ち着きのない児と注意欠陥/多動性障害の区別
  3. 多動の問診
  4. 観察
6 問題行動
  1. 症状
  2. 問診
  3. 観察
7 排泄の問題
  1. 排泄習慣の確立が遅れる
  2. 排泄するときに隠れる
  3. トイレで排泄できない
8 睡眠の問題
  1. 夜驚がある
  2. 寝つきが悪い
  3. 寝方に決まりごとがある
9 生活習慣の問題
  1. 生活リズムが崩れている
  2. 生活習慣が身に付かない
  3. 食事の問題
  4. 症例
10 学習上の問題
  1. 発達障害を疑う学習上の問題
  2. 子どもが抱くこころの問題
  3. 学習上の問題にどのように対応するか

CHAPTER3 親,家族の情報
 1. 子どもの年齢によって親や家族の情報の伝え方が変化する
 2. 患児,家族との面接のテクニックで重要なことはなんですか?
 3. 実際の面接において何が必要なことなのか
 4. 子どもや親・家族の面接で重要なこと
 5. 心理相談での面接の形態

V 発達障害の診断と対応

CHAPTER1 発達の遅れ
 1. 定義
 2. 診断
 3. 対応
CHAPTER2 広汎性発達障害
 1. 広汎性発達障害とは
 2. 対人関係障害のみかた
 3. 社会性の障害のみかた
 4. コミュニケーションの障害のみかた
 5. 常同性のみかた
 6. 自閉症のみかた
 7. 高機能自閉症
 8. アスペルガー障害
 9. 小児期崩壊性障害(折れ線型自閉症)
 10. 広汎性発達障害の家族歴の問診
 11. 広汎性発達障害の既往歴の問診
CHAPTER3 注意欠陥/多動性障害
 1. 定義および基本病因
 2. 基本的な問題点と診断や対応の手がかりになる特徴的な症状
 3. 注意欠陥/多動性障害が疑われた場合の対応
 4. 経過と予後
CHAPTER4 学習障害
 1. 定義
 2. いつ疑うか
 3. 対応
CHAPTER5 その他の発達上の問題
 1. チック
 2. 選択緘黙
 3. 吃音
 4. 睡眠の問題

VI 発達障害と使い方

CHAPTER1 評価法の種類と使い方
 1. 発達検査とは
 2. 発達検査の種類
CHAPTER2 乳幼児の全般的発達スクリーニング検査
 1. 津守式乳幼児精神発達診断法
 2. 遠城寺式乳幼児分析的発達検査法
 3. 日本版デンバー式発達スクリーニング検査DENVER ・─デンバー発達判定─
 4. 日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査(JMAP)
CHAPTER3 個別検査法
 1. 新版K式発達検
 2. ウェクスラー式知能検査(WPPSI,WISC─・) 
 3. 個別検査法を施行するうえでの留意点
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