見て診て学ぶ 膵腫瘍の画像診断

著 者
編集
 大友 邦(東京大学大学院医学系研究科放射線医学教授)
 木村 理(山形大学大学院医学系研究科消化器・一般外科学教授)
発行年
2009年5月
分 類
￿  肝・胆・膵 放射線医学・核医学
仕 様
B5判・392頁・写真750点・23図・38表
定 価
(本体 12,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1837-8
特 色 
 膵臓疾患に関する世界的エキスパートと画像診断学のスペシャリストがタッグを組み,膵臓の疫学から画像診断の各種検査法の特徴,適応,比較など最新の情報をわかりやすく解説した膵疾患画像診断学のスタンダードとなるビジュアルテキスト.総750点にものぼる画像データを駆使し,深部臓器である膵臓疾患を余すところなく描出する.
 予後の悪い代名詞であった通常型の膵癌も,疾患の検出・鑑別・病期の診断能の飛躍的な高まり,嚢胞性腫瘍の疾患概念に関する理解の深まり,また安全性と根治性を兼ね備えた外科的手技の確立によってそれなりの成績も報告されるようになった.本書は,このような現状と編者の豊富な経験から、膵疾患の画像診断について病理学的事項と治療法との総合的な関係の中でまとめたものである.
 膵腫瘍の画像診断にかかわる内科・外科・病理そして放射線科の先生方の日常診療のスキルアップのために、またこれからの膵疾患の治療成績の向上ためにぜひ手元においていただきたい.

●序   文●

●序-疾患との出会い
 われわれの日常診療の大部分は、従来の知識と経験で対応可能な作業です。またそうでなくては、一人前の医師あるいは専門家としての資格を問われかねません。しかしそのような日常の中に、予期せぬ“新しい疾患との出会い”があります。以下に私の印象に残っている“新しい膵疾患との出会い”のうちの2例を紹介させて頂きます。
 1例目は60代、男性。1990年にUS(体外式超音波)で膵腫瘤を疑われるも、CT(コンピュータ断層撮影)/EUS(超音波内視鏡)で確認できず経過観察。1991年、USで腫瘤の増大を認めました。造影CT(図1)で膵体尾部のびまん性の腫大と周囲被膜の肥厚が認められました。悪性腫瘍が否定できず切除が施行され、病理では“小葉間および小葉内にfibrosisがみられ、同時にリンパ球、プラズマ細胞の浸潤が目立ち、germinal centersの経営もある。小葉菜に腺房にatrophyがみられる。炎症性細胞浸潤は膵管壁にも波及し、stenoticである”(須田耕一先生)との診断でした。今から見直すと画像・病理ともにIgE4関連の典型的な自己免疫性膵炎であったと考えられます。土岐先生らが自己免疫性膵炎という疾患概念を提唱される1年前のことでした。
 2例目は20代、女性。1985年に上腹部に腫瘤を触知、単純X線像(図2)で卵殻状の石灰化を認め、CTで膵臓由来であることが確認されました。今であれば、若年女性に発生した卵殻状石灰化を伴う膵腫瘍=solid-pseudopapillary tumorということで、専門医試験でも正解率は100%に近いと考えられます。1981年Kloppelらが“solid and cystic acinar cell tumor of the pancreas”として既に報告していたのですが、画像所見のスペクトラムは十分把握されておらず、不勉強な私は鑑別診断の中に加えることすらできませんでした。
 一般的に画像診断を進歩させる主な要因として、検査法の開発・改良、新しい疾患(概念)の発見、新しい治療法の開発が挙げられます。膵臓に当てはめて考えると、超音波、CT、MRIの進歩により、深部臓器であった膵臓のさまざまな疾患の検出・鑑別・病期の診断能は飛躍的に高まっています。また膵臓の【嚢】胞性腫瘍の疾患概念に関する理解が深まるとともに、その画像所見のスペクトラムも明らかになってきています。従来予後の悪い癌の代名詞であった通常型の膵癌も、早期の症例では安全性と根治性を兼ね備えた外科的手技が確立し、それなりの成績が報告されるようになっています。
 本書はこのような現状認識と個人的な経験を踏まえ、膵腫瘍の最新の画像診断を、病理学的事項と治療法との総合的な関係の中でまとめることを最大の目的として企画しました。診療・教育・研究で多忙を極める中、快くご執筆頂いたすべての方々にこの場をお借りして、心より感謝申し上げます。
 本書が膵腫瘍の画像診断にかかわる内科・外科・病理そして放射線科の先生方の日常診療のスキルアップに役立つことを通じて、膵疾患の治療成績の向上に少しでも貢献できれば、それに勝る喜びはありません。
 最後にまた個人的なことを書いてしまいますが、木村理先生と私は昭和54年卒の大学の同級生です。膵臓に関して外科・病理の専門家として国際的にも屈指の存在である彼との共同作業は、私にとって非常に有意義なものでした。このような機会を与えてくださった埼玉医科大学総合医療センター教授本田憲業先生に感謝の意を表します。
 平成21年4月吉日 大友 邦

■ 主要目次


CHAPTERT ■ 総 論

1膵腫瘍の疫学
 T.膵癌
 U.膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
 V.漿液性嚢胞腫瘍(SCT)とSolid-pseudopapillary tumor(SPT)
 W.膵内分泌腫瘍
2膵腫瘍の病理組織学的分類
 T.膵腫瘍分類の特徴
 U.膵管腫瘍分類の特徴
3画像診断のための膵の発生学 膵の発生とそれに関連する奇形
 T.膵の発生
 U.膵の奇形

CHAPTERU ■ 検査法
 
1超音波/超音波内視鏡検査
 T.膵臓の解剖
 U.体外式超音波(US)検査
 V.超音波内視鏡(EUS)検査
2CT
 T.撮影プロトコール
 U.3次元画像
3MRI
 T.MRIが適応となる膵病変ならびに状態
 U.MR検査の禁忌
 V.MR検査
 W.撮影
 X.知っておきたい膵腫瘍とMR診断
 Y.膵腫瘍と鑑別を要する病変
4核医学
 T.FDG-PET・総論
 U.膵疾患のFDG-PET/各論
5ERCP
 T.ERCPの実際
 U.ERCPを利用した検査手技
 V.ERCPを利用した治療手技
 W.偶発症
6血管造影Venous samplingを含めて
 T.膵の血管解剖
 U.動脈造影
 V.静脈造影とVenous sampling

CHAPTERV ■ 嚢胞性腫瘍

1画像診断のための病理学
 T.膵嚢胞性腫瘍の概念の歴史的変遷
 U.漿液性嚢胞腫瘍(SCN)
 V.粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
 W.膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
2漿液性嚢胞腺種
 1)超音波/超音波内視鏡
 2)CT/MRI
3粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
 1)超音波/超音波内視鏡
 2)CT/MRI
4膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
 1)超音波/超音波内視鏡
 2)CT/MRI
 3)ERCPとその関連手技
5嚢胞性腫瘍の病態、画像診断と治療
 T.嚢胞性腫瘍の診断と手術適応

CHAPTERW ■ 充実性腫瘍

1画像診断のための病理学
 T.浸潤性膵管癌
 U.膵管内腫瘍由来の浸潤癌
 V.腺房細胞癌
 W.膵内分泌腫瘍
 X.充実偽乳頭状腫瘍(SPT/N)
 Y.膵芽腫
 Z.充実漿液性腫瘍
 [.転移性膵腫瘍:腎細胞癌
2膵管癌
 1)超音波/超音波内視鏡
 2)CT/MRI
 3)ERCP
 4)病期診断の問題点
 5)外科的治療と画像診断
 6)通常型膵癌の術後再発―経過観察のポイント―
3膵腺房細胞腫瘍
 T.画像所見
 U.鑑別診断
 V.まとめ
4神経内分泌腫瘍
 1)超音波/超音波内視鏡
 2)CT/MRI
5稀な腫瘍
 T.Solid-pseudopapillary tumor
 U.膵芽腫
 V.Undifferentiated carcinoma
 W.平滑筋肉腫
 X.悪性リンパ腫
6転移性膵腫瘍
 T.臨床所見
 U.画像所見

CHAPTERX ■ 非腫瘍性嚢胞性病変

1仮性嚢胞
 1)超音波
 2)CT/MRI

CHAPTERY ■ 非腫瘍性充実性病変

1腫瘤形成性慢性膵炎
 1)超音波
 2)CT/MRI
 3)治療と画像診断
2自己免疫性膵炎
 1)超音波
 2)CT/MRI
 3)膵外病変
 4)治療と画像診断

CHAPTERZ ■ 膵腫瘍と鑑別を要する腫瘤性病変

1消化管由来
 T.正常構造、正常変異
 U.腫瘤性病変
2後腹膜由来
 T.鑑別すべき後腹膜腫瘤の種類
 U.後腹膜腫瘤の質的診断
3脾臓由来
 T.脾の発生と副脾
 U.副脾の画像所見
 V.膵内副脾と膵腫瘍の鑑別
 W.副脾の病変
4膵血管性病変
 T.静脈瘤、門脈瘤
 U.真性動脈瘤
 V.仮性動脈瘤
 W.動静脈瘻(AVF)・動静脈奇形(AVM)
 X.門脈閉塞症
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