よくわかる 脳卒中介護指導教本


著 者
編集
 畑  隆志(静岡市立清水病院 副病院長)
 蜂須賀研二(産業医科大学リハビリテーション医学 教授)
発行年
2009年7月
分 類
リハビリテーション医学
仕 様
B5判・334頁・107図・写真80・111表
定 価
(本体 6,500円+税)
ISBN
978-4-8159-1844-6
特 色 
 わが国でもやっとt-PAの使用が承認されるなど,脳血管障害を積極的に治療できる時代となった.しかし,一次予防がいまだ困難である現状では,脳血管障害慢性期における介護リハビリテーションが果たす役割は非常に重要である.
  脳血管障害患者の介護上の問題点は多岐にわたり,いろいろな場面で患者さんや家族に対して細やかな指導を要する.疾患や薬剤に対する理解,維持的なリハビリテーション訓練の継続ばかりでなく,必要不可欠である福祉制度や介護サービスの上手な利用のため,医療者側も介護や福祉制度についての知識を整理しておかなければならない.
  本書は,従来のリハビリテーション理論・技術書とは異なり,患者さんの視点に立ち,脳卒中患者やその家族からの介護に関する疑問に応えられるよう, 介護や福祉制度の知識など脳血管障害慢性期の問題点を幅広く取り上げ整理し,病状説明や介護指導の現場で役立つよう企図された脳卒中介護の指導教本である. 広く脳血管障害の介護に携わるすべて方々にとって心強い実践テキストである.

●序   文●

序 文

 脳血管障害の完全な一次予防がいまだ困難である現状においては,脳血管障害の治療戦略は,急性期には,発作による脳障害をできる限り軽微に食い止める,慢性期には再発作を予防し患者さんの機能や生活の質を向上させることです。
  欧米に約10年遅れてt-PAの使用が承認されて,わが国でもやっと脳血管障害を積極的に治療できる時代になりましたが,t-PA療法は使用可能な時間が非常に短く,虚血性脳血管障害患者のすべてが十分な急性期治療を受けられているとは言えません。脳血管障害急性期の治療をより多くの患者さんに提供できるようにするためには,発症後可及的速やかに医療機関を受診できるようにすることが大切です。さらに,病院到着前から脳血管障害と適切に診断され治療が開始されるための救急隊教育や患者搬送体制,受け入れる病院側の脳血管障害診療体制(ストロークユニットなど)を充実させる必要があります。しかしながら現状では,最先端の脳卒中医療を受けられる患者さんはまだ一握りであって,大多数の患者さんは頑張って,後遺症に立ち向かっておられます。
  このような慢性期治療において,介護の果たす重要性は言うまでもありません。患者さん,そして患者さんの家族が疲弊することなく満足度の高い在宅生活を送るためには,疾患や薬剤に対する理解を深め,維持的なリハビリテーション訓練を継続するばかりでなく,福祉制度や介護サービスの上手な利用は必要不可欠です。したがって医療に従事するものは,慢性期治療のいろいろな場面で,患者さんや家族に対して細やかな生活指導に力を入れなければなりません。そのためには医療者側も介護や福祉制度についての知識を整理しておく必要があります。
  脳血管障害患者の介護上の問題点は多岐にわたります。なぜなら,脳血管障害患者の多くは高齢者であり,血管性病変は言うまでもなく,その他多くの疾患を合併していることがむしろ普通です。したがって全身性合併症,つまり心疾患,肺疾患,全身性代謝性疾患,変形性関節症,間欠性跛行などにも注意しなければなりません。在宅生活での介護は,単に脳血管障害によって生じた運動障害,コミュニケーション障害に注目するのではなくて,食事(嚥下障害,栄養障害),排泄(失禁,排尿困難と便秘),身だしなみ(入浴,整容),痛みやしびれ(感覚障害と卒中後中枢性疼痛)やこころの問題(うつ状態,自発性の低下と認知症),余暇活動などにも注目し,さらに介護者への配慮や社会的な問題(自動車の運転,成年後見制度,介護保険)などにも気を配らなければなりません。つまり脳血管障害の介護には,その患者さんの病気ばかりではなく,活動制限や参加制約にも十分配慮して取り組むべきです。
  今までに脳血管障害の急性期の病態や治療,リハビリテーションの技術や理論に関する書物はあまたありますが,患者さんの視点に立った介護に関する書物はわが国では決して多くはありません。今回,現在第一線で脳卒中診療にあたっている専門家の諸先生方の御協力を仰いで,患者さんや家族の方々がもたれるであろう疑問点に応える形で,脳血管障害慢性期の問題点を整理してみました。対象とする読者を医師,看護師,リハスタッフに限らず,広く脳血管障害の介護に携わっておられる方々すべてと想定し,なるべく平易な記載と,図表を多く用いるように努力致しました。この本が脳血管障害で悩まれる患者さんや家族への,病状説明や介護指導の場面で活用されることを期待致しております。
  平成21年7月吉日
  編 者

■ 主要目次

 目 次

第1章 脳卒中はどんな病気か

1 脳はどうなっている?
  1. 脳循環の構造と仕組み
  2. 脳卒中による症状
  3. 脳卒中の分類と病型診断
2 脳卒中の内科治療
  1. 脳卒中急性期の全身管理,合併症対策
  2. 脳梗塞の内科的治療
  3. 脳出血の内科的治療
3 脳卒中の外科療法
  1. 出血性脳卒中の手術療法
  2. 脳梗塞(虚血性脳卒中)の手術療法
  3. 脳卒中再発と紛らわしい慢性硬膜下血腫の手術療法
4 脳卒中のリハビリテーション 
1. 脳卒中リハビリテーションと診療体制
  2. 急性期リハビリテーション
  3. 回復期リハビリテーション
  4. 維持期リハビリテーション

第2章 在宅患者の健康管理

1 健康管理―脳の病態学的見地から
  1. 脳卒中在宅療養患者にみられる“脳病変”
  2. 脳卒中在宅療養患者における病態の特徴
  3. 脳卒中在宅患者における健康管理の注意点
2 合併症や他臓器疾患の管理
  1. 合併症の内訳と頻度
  2. 呼吸器感染症と尿路感染症
  3. 心血管合併症
  4. 末梢動脈疾患(PAD)(閉塞性動脈硬化症:ASO)
  5. 慢性腎臓病(CKD)
  6. 転倒と外傷
  7. 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)
3 再発に関与する因子と予防方法
  1. 分 類
  2. 二次予防
  3. 高血圧,糖尿病,脂質異常症の認知症予防について
4 脳卒中慢性期(安定期)の薬物療法(服薬指導)
  1. 脳循環代謝改善薬
  2. 脳卒中の再発予防

第3章 リハビリテーションの実際

1 回復期リハビリテーション病棟
  1. 急性期病院からの入院(地域医療連携)
  2. 回復期リハビリテーション病棟における診療の基本
  3. 維持期リハビリテーションへの橋渡し
2 通院リハビリテーション
  1. 通院リハビリテーションの目的
  2. 通院リハビリテーションの具体的内容
  3. 通院リハビリテーションの実施にあたっての留意事項
3 通所リハビリテーション(介護保険に基づく通所リハビリテーション)
  1. 地域リハビリテーション
  2. 通所リハビリテーション
  3. 具体的な訓練
  4. 通所リハビリテーションでの食事提供
  5. 通所リハビリテーションでの入浴
4 訪問リハビリテーション
  1. 訪問リハビリテーションの役割特性
  2. 訪問リハビリテーションに関する制度
  3. 訪問リハビリテーションの実際
  4. 課 題

第4章 日常生活の実際

1 全身状態のチェック(介護者・看護師を主体に) 
  1. 全身状態の把握
  2. バイタルサイン
  3. 日常生活行動の観察
2 嚥下と食事
  A 嚥下障害の診断と対策 
  B 経管栄養,胃瘻
  C 嚥下障害者の食事
  D 嗜好品・代替医療・サプリメント
  E 口腔ケア
3 コミュニケーション
  1. 構語障害について
  2. 失語症について
  3. 社会保障制度の活用など
4 心の介護
  1. うつ(脳卒中後うつ病:PSD)
  2. Apathy(アパシー)
  3. Fatigue(疲労感)
  4. 認知症
  5. 感情失禁(emotionalim)
  6. 睡眠障害
5 歩 行
  1. 正常歩行
  2. 脳卒中による運動麻痺
  3. 脳卒中の異常歩行
  4. 歩行訓練
  5. 装具
  6. 歩行介助
6 移乗(ベッド・車いす・トイレ・浴槽)
  1. 移乗の基本177
  2. ベッド←→車いすへの移乗(右片麻痺・自立の場合)
  3. ベッド←→車いすへの移乗(右片麻痺・1人介助の場合)
  4. ベッド←→車いすへの移乗(右片麻痺・2人介助の場合)
  5. ベッド←→車いすへの移乗(応用編)
  6. トイレへの移乗(左片麻痺・自立の場合)
  7. 浴槽への出入り[左片麻痺・自立(+介助)の場合]
  8. まとめ
7 脳梗塞後の排尿・排便管理について 
  1. 排尿・排便とは
  2. 排尿の基礎知識
  3. 排尿障害の用語
  4. 排尿障害を認めたら
  5. 主な疾患に対する対処法例
  6. 排便の基礎知識
  7. 排便障害
  8. 基本的な対処方法
  9. 便秘のタイプ分け
  10. タイプ別便秘薬の使用例
  11. 代表的な便秘治療薬
8 清拭・更衣
  1. 清拭
  2. 更衣
9 整 容 
  1. 整容とは
  2. 整容の意義
  3. 洗面・歯磨き・髭剃り
  4. 整 髪
  5. 入浴・シャワー浴介助
  6. 爪切り
  7. 整容のセルフケアへの援助のポイント
10 褥瘡予防とスキンケア
  1. 褥瘡の発生原因
  2. 褥瘡予防のリスクアセスメント
  3. 褥瘡予防の方法
  4. 褥瘡予防のためのスキンケア
  5. 症例提示
11 運動・痛みに対する介護
  A 中枢性疼痛をどうコントロールするか
  B 脳卒中後の頭痛は危険なものか 
  C 脳卒中後のめまいをどのように対処すべきか
  D 脳卒中後のてんかん発作はどのように対処すべきか
  E 脳卒中による関節の痛み
12 介護者への配慮
  1. 介護者(患者家族)への説明の重要性
  2. 介護者の反応と患者の回復・予後
  3. 患者の病状と介護者の疲労
  4. 介護者の健康管理
  5. 継続的な情報提供の重要性
13 余暇の過ごし方
  1. 音楽療法
  2. 絵画療法
  3. 園芸療法
  4. ダンス・セラピー
  5. その他のレクリエーション
14 住まいの整備
  1. 手すり
  2. 扉
  3. トイレ
  4. 浴室
  5. 居室・廊下・階段
  6. 屋外アクセス
15 福祉用具給付と実際
  1. わが国の社会保障の基礎
  2. 福祉用具とは
  3. 福祉用具給付制度
  4. 主な各制度の概要

第5章 生活支援と介護

1 在宅医療・看護
  1. 在宅医療・看護の目的
  2. チームアプローチと機関連携
  3. 在宅での目標とサービス
2 訪問介護・通所介護・短期入所
  1. 訪問介護
  2. 通所介護
  3. 短期入所
  4. 地域密着型サービス
3 介護保険の申請と利用
  1. 申請
  2. 手続き
  3. サービスの利用
4 身体障害者手帳の申請と利用
  1. 脳卒中患者の身障手帳取得の動向
  2. 脳卒中後遺症に該当する障害種目
  3. 申請の手続きの実際
  4. 身障手帳申請のタイミング
  5. 脳卒中の身障手帳申請――最近の傾向
  6. 身障手帳で利用可能な福祉サービス
5 成年後見制度の申請と利用
  1. 日常生活支援事業
  2. 成年後見制度
6 患者組織,支援団体
  1. 患者への支援
  2. 家族(介護者)への社会的支援
  3. 患者会
  4. 日本脳卒中協会の患者支援活動

第6章 患者さんの立場から

カートに入れる 前のページに戻る ホームに戻る