よくわかる 甲状腺疾患のすべて 改訂第2版


著 者
編集
 伴  良雄(昭和大学 名誉教授)
発行年
2009年8月
分 類
内分泌・代謝
仕 様
B5判・514頁・113図・写真90点・118表
定 価
(本体 9,500円+税)
ISBN
978-4-8159-1846-0
特 色 
 初版では, 医学生, 研修医, 実地医家, コメディカルを対象として,甲状腺疾患のあらゆる項目を網羅し, わかりやすい解説で好評を博した. 初版から5年が経過し, 今回の改訂では本疾患をとりまく状況の変化に対応し内容のさらなる充実と刷新を図った.
  第1部臨床編では,頻度の高い重要かつ代表的な甲状腺疾患の診断と治療を解説.第2部臨床の応用編では,診断に必要な検査,バセドウ病や橋本病の特殊型,治療上の注意,新しい治療法,頻度は少ないが重要な疾患を,第3部基礎編では,最近解明されつつある発症機序,病因や病態にかかわる事項,トピックス,実験モデルなど,最新の知見を網羅しさらに充実.甲状腺疾患の基礎的治療法から, 手術, ヒトゲノムの応用の進歩までをしっかりと解説する甲状腺疾患に携わる方々の必携書である.


●序   文●

改訂第2版 序文

 本書は医学生、研修医、実地医家、コメディカルの方たちを対象にしたシリーズの一環として企画された。本書は初版以来5年有余を経過し、その間、本疾患を取り巻く状況も変わり今回の改訂にあたっては現状を鑑みて内容のさらなる充実・刷新を図った。はじめに、臨床編として、頻度の高いないし重要な代表的な甲状腺疾患の診断と治療を扱った。第2部、臨床の応用編として、その診断に必要な検査、バセドウ病や橋本病の特殊型、治療上の注意、新しい治療法、頻度は少ないが重要な疾患を、第3部、基礎編として、最近解明されつつある発症機序、病因や病態にかかわる事項、トピックス、実験モデルなどをそれぞれの専門家にわかりやすく解説して頂いた。
  甲状腺は前頸部下方にある15〜20gの表在性の内分泌臓器であるので、甲状腺腫の発見は比較的容易である。また甲状腺ホルモンの作用は成人においては代謝の亢進と熱の産生であるので、その過不足は症状として現れやすく、甲状腺機能異常の存在も容易にわかる。
  しかし、頸部の形状によっては甲状腺腫を認めにくくなることがある。頸が短く、筋肉の発達した男性では触診しにくい。逆に鶴首の女性では気管軟骨の上にみられるが、時には甲状腺の腫脹と見誤られることがある。これは画家モジリアニの描くスワンネックの女性の首に似ており、モジリアニ症候群といわれる1)。中等度以上に腫大すると視診でも甲状腺腫を認めることができるようになる。さらに腫大すると甲状腺下極は鎖骨窩から胸骨背面まで発育し、胸部X線写真で認めることができる。また前側方にも腫大するので、びまん性に腫大するバセドウ病や橋本病では胸鎖入突筋が扁平化し、胸鎖乳突筋が摘めなくなる。高齢者のバセドウ病甲状腺腫は極めて小さいことが多い。
  甲状腺は血中から無機ヨードをヨードトランスポータという輸送蛋白によって、能動的に取り込む。無機ヨードは甲状腺特異酵素であるサイロペルオキシダーゼによって、有機化され、ペンドリンによって甲状腺濾胞側に運ばれたサイログロブリンに結合する。大分子のサイログロブリンは甲状腺特異蛋白であり、甲状腺細胞によって球状構造に形成された甲状腺濾胞腔内にある。サイログロブリンの構成アミノ酸で比較的豊富にあるタイロシン残基に、有機化されたヨードが結合し、モノヨードタイロシン、ジヨードタイロシンができ、その縮合によりトリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)が合成される。サイログロブリンの一部がエンドサイトシス蛋白、メガリンによって甲状腺細胞に運ばれ、加水分解によってT3、T4は遊離し、血中に放出される。甲状腺でつくられるT3は血中T3の20〜30%である。
  これらの反応は甲状腺自身では機能できず、TSHが甲状腺膜上にあるTSH受容体に結合し、甲状腺細胞内に産生されるcAMP、一部IP3を介して機能が発揮され、また細胞増殖も起こる。
  血中に分泌されたT3、T4の99.9%以上はサイロキシン結合蛋白(TBG)、プレアルブミン(トランスサイレチン)やアルブミンに結合して、貯蔵されている。TBGなどの血中サイロキシン蛋白に結合していない遊離のT4は0.02%程度で、これが末梢細胞の膜を通過して細胞内に入り、5’-脱ヨード酵素によりT4→T3となる。T3は甲状腺ホルモン受容体に結合し、細胞核に移行し、DNA配列のプロモーター領域にあるホルモン結合ドメインに結合し、当該末梢細胞の特異蛋白や酵素がつくられ、末梢細胞の代謝が維持される。T3はエネルギー産生系では熱の産生に関与して体温を維持する。
  下垂体のTSH産生細胞および視床下部分泌細胞はT4によるネガテイブ・フィードバックを受ける。TSHの産生分泌は視床下部分泌細胞から分泌されるTRHやドパミンの作用が関与する。
  甲状腺腫は、びまん性甲状腺腫57%、結節性甲状腺腫43%に大別され、びまん性甲状腺腫ではバセドウ病54%、橋本病37%、単純性甲状腺腫5.3%および亜急性甲状腺炎3.2%である。
  従来甲状腺機能亢進症といわれていたものは抗TSH受容体抗体が認められ、バセドウ病と診断されるようになった。橋本病は血中甲状腺抗体の検出によって診断される。単純性甲状腺腫と思われていたものは抗甲状腺抗体の高感度定量法の開発により、その頻度は2000年の12%から2006年には5.3%に減少した。
  結節性甲状腺腫は良性86%、悪性14%である2)。最近では、特殊なものを除いて良性腫瘍は手術しないので、穿刺吸引細胞診で行われる良・悪性の鑑別が重要となる。細胞診診断医の技量が患者のQOLを左右することになる。
  治療に関する最近の進歩では、良性腫瘍に対するエタノール注入療法は第一選択である。薬剤の使用できないバセドウ病で、亜全摘を拒否ないしはできない放射性アイソトープ治療拒否の例や術後再発バセドウ病例などにエタノール注入療法が応用されている。
  手術の欠点は手術傷が可視範囲に残ることである。最近では甲状腺に対する手術は若い女性のみならず、老婦人でもQOLから嫌がられる。甲状腺専門外科医のいる施設では、胸部や腋窩から内視鏡を挿入する内視鏡補助下手術が行われるようになった。
  ヒトゲノムの解析技術の進歩はTSH受容体の一塩基置換による機能性甲状腺結節、甲状腺機能亢進症や低下症が明らかにされている。甲状腺癌におけるチロシンキナーゼ遺伝子異常や細胞内情報伝達系の異常、MEN-UAにおけるRet遺伝子の異常、甲状腺癌における予後規定因子としてp53の異常は臨床に応用されつつある。
  バセドウ病や橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患は多因子疾患といわれ、疾患感受性遺伝子の検索が進行している。またバセドウ病の発症や寛解の得やすさ、副作用の発現などSNPsの解析で明らかになるかも知れない。
  バセドウ病、橋本病や遺伝子ノックアウトマウスの実験モデルからは病因や病態の解明につながる知見が得られつつあり、今後も発展が期待される。
  医学生などから検査項目の解説がほしいとの要望があったので、巻末附録5にその一覧表を記した。
   平成21年7月吉日
  編集 伴 良雄

■ 主要目次

 目 次

I.甲状腺の臨床 臨床編
  1.バセドウ病の診断
  2.バセドウ病の治療
  3.バセドウ病の治療:アイソトープ療法
  4.バセドウ病の治療:手術療法
  5.橋本病の診断
  6.甲状腺機能低下症の治療
  7.無痛性甲状腺炎の診断と治療
  8.亜急性甲状腺炎の診断と治療
  9.結節性甲状腺腫の診断
  10.良性腫瘍の治療
  11.分化癌の治療と予後

II. 甲状腺の臨床 応用編
  1.甲状腺疾患の超音波診断
  2.甲状腺シンチグラフィ
  3.穿刺吸引細胞診
  4.Euthyroid Graves' diseaseとHypothyroid Graves' disease
  5.バセドウ病眼症の診断と治療
  6.前脛骨部限局性粘液水腫の診断と治療
  7.バセドウ病クリーゼの診断と治療
  8.バセドウ病と妊娠・産後
  9.抗甲状腺薬の胎児への影響
  10.抗甲状腺薬服用の乳児への影響
  11.新生児バセドウ病(新生児甲状腺機能亢進症)
  12.小児バセドウ病の特徴
  13.高齢者のバセドウ病の特徴
  14.甲状腺疾患と循環器異常
  15.バセドウ病の心理的側面
  16.抗甲状腺薬の副作用
  17.PTUとMPO-ANCA
  18.抗甲状腺薬の服薬指導
  19.内視鏡下バセドウ病手術
  20.甲状腺機能亢進症のPEIT
  21.バセドウ病以外の甲状腺中毒症
  22.潜在性甲状腺機能亢進症の全身への影響
  23.橋本病の自然経過
  24.橋本病と妊娠、産後の異常
  25.新生児一過性甲状腺機能低下症
  26.先天性甲状腺機能低下症の診断と治療
  27.中枢性甲状腺機能低下症の診断と治療
  28.潜在性甲状腺機能低下症の全身への影響
  29.甲状腺ホルモン薬の服薬指導
  30.甲状腺ホルモン不応症の診断と治療
  31.TSH産生腫瘍の診断と治療
  32.急性化膿性甲状腺炎の診断と治療
  33.甲状腺癌に対するエタノール注入療法
  34.甲状腺髄様癌とMEN-2型の診断と治療
  35.甲状腺未分化癌の診断と治療
  36.甲状腺原発悪性リンパ腫

III.甲状腺の臨床 基礎編
  1.甲状腺ホルモンの生成機構とそのコントロール
  2.バセドウ病の発症機序
  3.橋本病の発症機序
  4.自己免疫性甲状腺疾患の遺伝要因と環境要因
  5.自己免疫性甲状腺疾患とSNPs
  6.自己免疫性甲状腺疾患に合併する自己免疫疾患
  7.甲状腺細胞の機能とサイトカイン
  8.甲状腺細胞の機能と成長因子
  9.Na+/I−シンポータとその異常
  10.甲状腺とヨード
  11.Pendred(ペンドレッド)症候群
  12.TBG異常症
  13.甲状腺疾患とタバコ
  14.非甲状腺疾患における甲状腺ホルモン異常
  15.薬剤誘発性甲状腺疾患
  16.甲状腺癌の診断に役立つmRNA
  17.甲状腺腫瘍における遺伝子変異
  18.家族性甲状腺癌
  19.甲状腺微小癌
  20.放射線誘発性甲状腺癌
  21.甲状腺癌に対する131I治療
  22.甲状腺癌の遺伝子治療
  23.バセドウ病実験モデル
  24.橋本病動物モデル
  25.甲状腺ホルモン受容体動物実験モデル  

附   録
  1 甲状腺疾患診断ガイドライン(第7次案)
  2 甲状腺PEITに関するガイドライン
  3 甲状腺疾患手術に関するクリニカルパス
  4 甲状腺に関連する症候群
  5 甲状腺関連検査項目

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