自殺予防の実際


著 者
編集
 高橋 祥友(防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学研究部門 教授)
 竹島  正(国立精神・神経センター精神保健研究所自殺予防総合対策センター長)
発行年
2009年8月
分 類
精神医学/臨床医学一般
仕 様
B5判・306頁・57図・35表
定 価
(本体 6,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1848-4
特 色 
 本書では自殺をさまざまな要因からなる複雑な現象と捉え, ■関連する精神疾患の早期診断・治療により自殺を予防する(メディカルモデル)とともに自殺に関する適切な知識の普及により精神疾患への偏見を和らげることで自殺を予防する(コミュニティモデル)こと, ■事前対応・危機介入・事後対応について, ■ライフサイクルと自殺, という視点から自殺の背景原因と実態に迫り, 自殺者を減少させるにはどうしたらよいかその予防策について考察する. また■トピックスでは,昨今自殺の要因として重要視されるようになったインターネット,群発自殺,過労,多重債務による自殺や,マスメディアとの関係も取り上げ社会と自殺予防についてもあらゆる角度から考える.自殺予防活動に携わるすべての人々にとって指針となる必携の書である.


●序   文●

 警察庁の統計によると、わが国の年間自殺者数は1998年以来、3万人を超える水準が続くという深刻な事態が続いている。この数は、2008年でみると、交通事故死者数の約6倍に及ぶ。なお、自殺未遂者は既遂者の少なく見積もっても10倍は存在すると推定されている。そして、強いつながりのあった人が自殺未遂に及んだり、自殺してしまったりしたために、深いこころの傷を負う人も数多い。このように、自殺とは、死にゆく3万人の問題にとどまらずに、社会を広く巻き込む問題となっている。こういった現状を直視して、2006年には自殺対策基本法が成立し、自殺予防は社会全体で取り組むべき課題であると宣言された。
  敢えて断るまでもないが、自殺はさまざまな要因からなる複雑な現象である。しばしば、昨今の自殺の増加の原因を、経済的要因や、精神的問題だけで説明しようと試みられるが、決してそれほど単純なものではない。ストレス-素因モデルを例にとれば、絶望感、衝動性または攻撃性に、ストレッサーとしての精神疾患、心理社会的危機が複雑に絡み合って、最終的な悲劇である自殺が生じている。
  本書では自殺が多要因的な現象であるという事実に基づいて、いくつかの切り口から自殺の問題を取りあげている。すなわち、@メディカルモデルとコミュニティモデル、A事前対応、危機介入、事後対応、Bライフサイクルと自殺、という視点から自殺の実態に迫るとともに、予防策について考察している。
  メディカルモデル(自殺に密接に関連する精神疾患を早期の段階で診断し、適切な治療を行うことで、自殺を予防する)とコミュニティモデル(一般の人々に適切な知識を普及するとともに、精神疾患に対する偏見を和らげることで自殺を予防する)を緊密に連携させて、国のレベルで自殺率を減少させることに成功した例としてしばしばフィンランドが挙げられる。フィンランドの関係者が異口同音に指摘するのは、自殺予防は短期間で成果が上がるものではなく、適切な方針に基づいて、長期的に粘り強く取り組んで初めて徐々に効果が現れるという点である。わが国で自殺予防活動を進めているわれわれもこの教訓を学びながら、地道に活動を続けていく必要がある。
  自殺を理解するキーワードは「孤立」である。地域社会に生きる一人ひとりが、自殺の危機に追いやられた、すなわち危機が重なる人が、必死で発している救いを求める叫びを正面から受け止めて、周囲の人々との絆を回復することこそが、自殺予防につながる。本書が自殺予防活動に携わる人々の指針の役割を果たすことができれば幸いである。
  2009年8月
  高橋祥友、竹島 正


■ 主要目次

● 目 次 ●

T.自殺についての基礎知識
 
1■自殺の実態:日本と世界の自殺
1.日本における自殺の現状
2.世界の自殺

2■自殺対策基本法
1.わが国の自殺対策の経緯―1998年の急増以前
2.1998年の自殺者数急増後の自殺対策の経緯

3■自殺の危険因子
1.自殺企図歴
2.精神障害の既往
3.周囲から得られるサポートの不足
4.性 別
5.年 齢
6.喪失体験
7.性 格
8.他者の死の影響
9.事故傾性
10.児童虐待
11.身体疾患

4■心理学的剖検
1.心理学的剖検の歴史
2.心理学的剖検の適用
3.日本における心理学的剖検
4.心理学的剖検とポストベンション

  U.ライフステージと自殺

1■児童・青年期の自殺
1.青少年の自殺の現状
2.青少年の自殺の特徴
3.青少年の自殺の危険因子
4.青少年の自殺予防の学校での取り組み
5.自殺行動を示す青少年の治療

2■成人期
1.働き盛り世代のうつ自殺予防対策「富士モデル事業」
2.成人期の自殺対策のポイント

3■老年期
1.老年期における自殺の現況
2.老年期における自殺の特徴
3.自殺予防

  V.メディカルモデルとコミュニティモデル

1■メディカルモデルとコミュニティモデル
1.諸外国の自殺対策の構造
2.わが国の自殺対策と国内の代表的取り組み
3.まとめ

2■コミュニティメンタルヘルスと自殺予防
1.米国および英国のコミュニティメンタルヘルスの発展と自殺予防
2.わが国のコミュニティメンタルヘルスの発展
3.まとめ―草の根的取り組みに自殺予防を学ぶ

3■精神科医療と一般医療の連携
1.自殺と精神障害
2.自殺予防と医療
3.一般医におけるうつ病診療
4.一般医と精神科医との連携

  W.プリベンション

1■地域における自殺予防教育
1.行政からの取り組み
2.特色ある取り組み
3.評価について

2■学校における自殺予防教育
1.自殺予防教育の実際
2.自殺予防教育の必要性
3.自殺予防のための日常的取り組み

3■職場における自殺予防教育
1.労働者の自殺に関する現状と背景
2.「労働者健康状況調査」の結果からみた職場のメンタルヘルス対策の現状
3.労働者のメンタルヘルスに関するわが国の動向
4.予防教育の実際

4■自殺予防教育の適用と限界
1.教育目的
2.対 象
3.教育の時期
4.教育内容
5.一般的な対処法
6.教育のその他の効果
7.これまでの研究による知見

  X.インターベンション

1■自傷と自殺のアセスメントとマネジメント
1.自傷・自殺をどう捉えるか
2.自殺企図のアセスメントとマネジメント
3.自傷のアセスメントとマネジメント

2■救急の場におけるインターベンションの原則と実際
1.救急の現場と自殺未遂者とのかかわり
2.自殺未遂者の傾向と特徴
3.救急外来、初療での対応
4.入院後のインターベンション
5.身体治療終結に際して
6.精神科医と救急医療そして自殺予防

3■自殺の危険の高い患者に対する長期治療
1.治療の原則
2.外来治療
3.入院治療
4.長期フォローアップ

4■自殺の危険の高い患者への精神療法の原則
1.自殺の危険の疑われる患者の精神療法の原則
2.自殺を防ぎ切れなかった場合の遺族とスタッフへの心のケア

  Y.ポストベンション

1■遺された人(遺族・知人)の反応
1.悲嘆反応とプロセス
2.自殺によって遺された人の悲嘆
3.自殺における主体性の問題

2■遺された人々のケア
1.遺された人々の問題
2.ポストベンションの目的
3.個人に対するポストベンション
4.集団に対するポストベンション
5.実際にポストベンションを行ってみて

3■子どもの自殺とCRT
1.学校危機とCRT
2.CRTの活動
3.CRTの特徴

  Z.トピックス

1■群発自殺
1.群発自殺の定義
2.フィクションが誘発した群発自殺
3.実際の自殺が引き起こした群発自殺:アイドル歌手の自殺と群発自殺
4.マスメディア報道と群発自殺:ウィーンの地下鉄の自殺と報道ガイドライン
5.報道の在り方…232

2■マスメディアと自殺報道
1.自殺報道
2.秋田県で
3.ペンを持つ仲間たちへ

3■インターネットと自殺
1.インターネットが自殺に及ぼす影響
2.インターネットによる自殺防止

4■いのちの電話における自殺予防
1.いのちの電話と自殺予防学会の成立
2.メール(インターネット)相談の特性
3.インターネット相談の特質
4.危機介入の実際

5■過労自殺
1.過労自殺の原因
2.医師の過労自殺
3.過労自殺をなくそう

6■多重債務と自殺
1.なぜ多重債務で自殺するか
2.なぜ死を選ぶのか
3.孤独な父親
4.苛烈な取り立て
5.解決の処方
6.まとめに代えて

7■自殺予防と法制度
1.自殺対策基本法
2.自殺関与罪

8■マイノリティと自殺
1.民族的マイノリティと自殺
2.性的マイノリティと自殺

9■自殺行動に関する精神生物学的研究
1.ゲノムと個体の多様性
2.自殺行動の精神生物学的背景
3.自殺行動とパーソナリティ
4.セロトニン神経系に着目した研究
5.セロトニン神経系以外に着目した研究

10■自殺予防対策の政策決定プロセス
1.日本政府による自殺対策の流れ
2.自殺総合対策大網策定の過程と枠組み
3.エビデンスを重視したニュージーランドの自殺対策戦略の策定過程と枠組み
4.公衆衛生学的な手法を重視した米国の自殺対策戦略の枠組み
5.わが国の自殺総合対策大網とニュージーランドおよび米国の自殺予防戦略の比較
6.日本の自殺対策活動の政策立案にあたっての提案

11■自殺予防に携わる援助者の支援体制
1.自殺予防に携わる援助者の困難
2.教育・研修と情報交換
3.事後対応―遺された人としての支援者
4.支援者への直後の対応―情報共有とケアの手順をあらかじめ準備する
5.振り返りの機会
6.支援者の支援体制

カートに入れる 前のページに戻る ホームに戻る