必携 ハイリスク妊娠の診療を極める


著 者
編集
 江口 勝人(岡山中央病院産婦人科・周産期センター長)
発行年
2009年8月
分 類
産婦人科学
仕 様
B5判・428頁・84図・写真88点・138表
定 価
(本体 9,500円+税)
ISBN
978-4-8159-1849-1
特 色 
 分娩をめぐる状況は大きく変化した.ヒトの分娩は,生物学的にみて他の四足動物と比較しても基本的に難産であり,ヒトは1人では出産することができない.常に助産あるいは分娩介助が必要である.常にリスクを伴う分娩だが,今日わが国の産科医の努力と医療技術の進歩によって母体死亡は劇的に減少している.
  しかし,過度ともいえる安全神話は医療よりもアメニティを優先させ,また医学の進歩により妊娠・出産をあきらめていた女性が児を持つことを熱望するようになった.このことは,分娩リスクの希薄化と,典型的なハイリスク分娩の日常化をもたらし,分娩を巡る医療訴訟,トラブルが増加,産科医・産科医療を疲弊させる原因となっているいえる.
  本書は,そのような産科医療の崩壊の状況を鑑み,医療を担う若い研修医,臨床医を対象に,ハイリスク妊娠について最新の治療法とその問題点を解説し,その理解とリスクに対応する糧となるよう企図されたテキストである.分娩とは元来ハイリスクであることを知り,今後も増加するハイリスク妊娠に直面したときに何ができるのかを教えてくれるバイブルである.

●序   文●

序文

 分娩とは新しい生命の誕生を意味し、最も華やかな瞬間である。その意味では、ヒトの原点でもある。しかし、わが国では今まで成人・老人医療に対しては手厚い補助政策を行ってきたが、妊娠・出産を取り扱う産科医療に対してほとんど手当てを施すことなく、ひたすら産科医に使命感や自己犠牲を強いることを続けてきた。過酷な労働環境と、最近の分娩をめぐる医療訴訟などが原因で産科医が減少し、今や産科医療は冬の時代を迎えており、まさに崩壊の危機に直面していると言っても過言ではない。
  元来、比較生物学的にみても四足動物に比べて直立歩行するヒトは骨盤形態、大脳化(encephalization)などの理由から難産である。因みに、分娩機転において骨盤腔で児頭が回旋し、児が母体の背側を向いて出生するのは霊長類のうちヒトだけである。だから、ヒトは1人で出産することができない。必ず助産あるいは分娩介助が必要となる。ヒトの分娩は、基本的に難産であり常にリスクを伴う。時には死に至ることもある。昭和初期には年間約5,000人の母体死亡があったが、平成に入ると年間50〜60人にまで減少した。これもわが国の産科医の絶ゆまぬ努力の賜物である。
  然るに、最近では分娩の安全神話が過度に浸透して、医療よりもアメニティを優先し、分娩そのものがハイリスクであることが忘れられているようである。その結果、分娩を巡る医療訴訟、トラブルが増加して産科医は疲弊しているのが現状である。
  それに加えて、従来は種々の合併症のため妊娠・出産をあきらめていた女性も、医学の進歩とともに児を熱望することが多くなり、その対応をも迫られる。これらはすべて典型的なハイリスク妊娠であり、その頻度はますます増加している。
  これからの医療を担う研修医にとって、ハイリスク妊娠について最新の治療法とその問題点を理解することは有意義であると考え、本書を企画したものである。また、実地医家諸先輩の机上でのバイブルとしても役立つことを信じる。
  最後に、ご多忙の中、執筆をご快諾頂いた諸氏にお礼を申し上げる。

  平成21年8月
  江口 勝人

■ 主要目次

● 目 次 ●

 総 論

T ■ハイリスク妊娠管理の諸問題
1.ハイリスク妊娠の頻度
2.ハイリスク妊娠の問題点
3.ハイリスク妊娠が周産期医療現場に及ぼす影響4
4.ハイリスク妊娠の落とし穴

U■ハイリスク妊娠と病診連携
1.医療施設の機能別役割分担
2.妊娠リスクスコア
3.産科オープンシステム
4.産科クリティカルパス

V■産婦人科と医療訴訟
1.社会の中の産科医療
2.偽りの契約と裁判情報
3.医療刑事裁判の変化と峻厳化
4.医療裁判批判の新展開
5.産科医療補償制度
6.医学・医療の責任
7.法医鑑定の問題
8.残された課題

 各 論

T■周産期医療の基本
1.ヒトの分娩現象―ヒトの出産はリスクを伴うものである
  1.日本における周産期医療の現状
  2.ヒトの分娩はもともと難産である
2.周産期医療におけるインフォームド・コンセント
  1.「産婦人科診療ガイドライン;産科編2008」の求めるインフォームド・コンセント
  2.北海道大学病院産科で文書によるインフォームド・コンセントを義務化している事項

U■妊娠時の異常
1.妊婦の子宮頸部異常細胞診
2.重症妊娠悪阻
3.流 産
4.胞状奇胎
5.子宮外妊娠
6.妊娠女性の卵巣腫瘤茎捻転
7.抗リン脂質抗体症候群合併妊娠
8.子宮筋腫
9.糖代謝異常妊娠
10.母子感染
11.切迫早産
12.頸管無力症
13.妊娠高血圧症候群
14.妊娠高血圧症候群関連疾患
15.前置胎盤(含む癒着胎盤)
16.常位胎盤早期剥離
17.前期破水
18.胎児機能不全
19.臍帯異常と子宮内胎児死亡
20.子宮内胎児発育遅延(不全)(IUGR)
21.胎児の形態異常
22.羊水の診断(羊水過少症・羊水過多症)
23.双 胎
24.骨盤位経腟分娩
25.臍帯脱出
26.帝王切開既往妊婦の分娩
27.過期妊娠

V■分娩時の異常
1.遷延分娩
2.回旋異常(含むCPD)
3.急遂分娩の適応と選択
4.帝王切開時の麻酔法(全身麻酔、脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔)
5.帝王切開時の子宮摘出
6.肩甲難産
7.子宮破裂
8.子宮内反症
9.分娩後大量出血
10.静脈血栓塞栓症(VTE)
11.播種性血管内凝固症候群(DIC)
12.羊水塞栓症

W■産褥期の異常
1.子宮復古不全
2.産褥感染症(産褥熱)
3.マテニティブルーズと産後うつ

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