よくわかる 気管支喘息 その診療を極める


著 者
編集
森田 健(獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科 教授)
発行年
2009年10月
分 類
アレルギー/呼吸器一般
仕 様
B5判・364頁・123図・カラー29・116表
定 価
(本体 7,500円+税)
ISBN
978-4-8159-1850-7
特 色 
 1980年代後半以降,喘息に関する基礎的・臨床的研究の発展と,吸入ステロイド薬のガイドラインでの使用推奨によって喘息死は劇的に減少した.しかし,今でも喘息死者と救急外来での喘息発作者がなくならないことは,喘息に対する正しい診断と適切な治療が行われていない可能性があること,また喘息はその病態と発症のメカニズムについて不明の部分がまだまだあることを表している.
そのため,喘息患者を診察する医師は経験年数、専門性にかかわらず,喘息についての基礎・最新の知識を有する必要がある.
本書は,喘息についてその概念から病態・生理,検査,治療・診断,管理と予防,そして喘息治療の将来まであますところなく,わかりやすく,かつ,最新の知見も網羅した教科書,実践書である.
喘息患者を診察する医師はぜひ本書を繙いて,まだまだ克服されたとは言えない喘息の何が解決され何が未知かを知って,正しい診断,正しい重症度判定のもとに適切な治療を行っていただきたい.

●序   文●

 この度「よくわかる気管支喘息─その診療を極める─」を刊行することになりました。
1960年から現在までの成人喘息患者の死亡総数を10年ごとに追っていきますと、60年代は9,000〜10,000人、70年代6,000〜7,000人、80年代6,000人、90年代は中半まで6,000人台でありましたが、その後、急激に減少し90年代末には5,000人前後となっています。そして2000年代に入ってからは減少がさらに加速され、2006年に3,000人を割り、2008年には遂に2,347人と70年代の1/3にまで減少しました。喘息発作による入院、予定外受診も著しく減っております。60年代〜80年年代前半までの約20年間、喘息の本質的病変は気道を支配する自律神経系の異常、あるいは気管支平滑筋の先天的ないし後天的異常に基づく気道過敏性であるとの仮説のもとに膨大な数の研究が展開されました。しかし、喘息死数の年次推移で明らかなように、その成果は喘息治療の飛躍的進歩には結びつきませんでした。当時若かった筆者も日夜研究に励んでいましたが、振り返ってみると核心をついた研究ではなかったわけです。1985年、de Monchyらはアレルゲン誘発の遅発型喘息反応では気管支肺胞洗浄液中に好酸球が増加することを今のブルージャーナルの前身のAm Rev Respir Disに発表、おそらく、この論文を境にして喘息研究は一気に気道炎症に向けて走り出しました。喘息特有の気道炎症を太い木の幹に例えれば、そこから次々と新しい研究分野が芽生え、それが急成長して枝の先に実を付けていったわけです。そして、それまで正体不明といわれていた気道過敏性も実は、気道炎症、それが持続した結果としての気道リモデリングが発症要因となっていることが明らかにされました。となると、喘息の治療戦略は気道炎症、気道リモデリングの抑制、予防という当然の流れとなり、それに最も効力があり、かつ安全に使用できるものが吸入ステロイド薬ということも判明、ガイドラインでその使用が推奨され、冒頭で示した喘息死の劇的減少となりました。つまり80年代後半以降の喘息に関する基礎的、臨床的研究が結実したわけで、scienceとartの見事なcollaborationであったと言えます。

 しかし、喘息死がゼロになったわけではありません。また、救急外来から喘息発作の患者がいなくなったわけではありません。その理由はいくつかあると思いますが、一番大きな原因として、喘息を診療する医師すべてが喘息に精通しているわけではないので、正しい診断、正しい重症度判定のもとに適切な治療がなされていない可能性があります。医師としての経験年数、専門性にかかわらず、喘息患者を診察する以上は喘息についての最新の知識を有する必要があります。また、喘息に関する別な問題として、新たな喘息の発症は減るどころか増加しております。喘息の病態の理解は大きく前進しましたが、発症のメカニズムについては遺伝的要因、環境的要因を含め不明の部分がまだまだあるのです。確かに、最近の喘息治療の進歩は、ほとんどの患者において喘息症状のほぼ完璧なコントロールを可能にしましたが、一部の患者は治療抵抗性であり、また、よしんばコントロールできても長いこと休薬すれば喘息症状は再発する可能性があり根治療法ではないのです。近年のガイドライン治療の成功により、ともすれば喘息を専門にしている者でも喘息はほぼ克服されたと思いがちですが、登山で言えばまだ3合目付近かも知れないのです。したがって、われわれ、喘息を専門にする者も、また、これから専門にしていこうとする者も、これまでに何が解決され何が未知かを、よく知ったうえで、頂上を目指さないと核心に迫った研究はできない可能性があります。

 本書は、概念から病態・生理、検査、治療・診断、管理と予防、そして喘息治療の将来まであますところなく、わかりやすく、かつ、最新の知見も網羅した教科書、実践書として企画致しました。実地医家はもちろんのこと、研修医、看護師、関係諸氏の皆様方に必ずや日常診療で役立つものと思っています。また、喘息を研究している者にとっても、研究の方向性を正しく導く羅針盤として役立つと信じております。
最後に、お忙しい中を、本書のために貴重な時間を割いて執筆頂いた諸先生方に衷心より感謝申し上げます。

平成21年10月吉日
獨協医科大学教授 福田 健

■ 主要目次

● 目 次 ●

1 喘息の疾患概念 
  1.喘息の疾患概念の歴史的変遷
  2.今日における喘息の定義

2 喘息の疫学 
  1.喘息の罹患率
  2.喘息の死亡率
  3.喘息有病率・喘息死亡率の国際比較

3 喘息の発症・増悪にかかわる因子 
  A.遺伝的要因
  B.環境因子   

4 喘息の病態生理
  A.喘息の病理
  B.喘息病態の概要(オーバービュー)
  C.気道炎症のメカニズム
  D.気道リモデリングのメカニズム
  E.気道過敏性の機序
  F.気道閉塞のメカニズム

5 喘息の症状と身体所見
  1.喘息の症状
  2.身体所見

6 喘息の検査所見
  A.一般検査
  B.呼吸機能検査
  C.肺のガス交換障害の解析
  D.画像所見
  E.気道リモデリングの治療法
  F.アレルギー状態の評価

7 喘息の合併症
  1.気胸、縦隔気腫、皮下気腫
  2.無気肺
  3.咳失神
  4.骨粗鬆症
  5.胃食道逆流症(GERD)
  6.横紋筋融解症

8 喘息の診断
  A.成人喘息の診断の流れ
  B.診 断
  C.重症度、コントロール状況、増悪因子の診断
  D.鑑別診断

9 喘息の管理と予防
  A.患者教育と医師・患者間のパートナーシップ
  B.在宅ピークフロー測定による喘息状態の客観的評価
  C.喘息増悪因子の回避およびコントロール

10 薬物による喘息の長期管理
  長期管理に用いる薬物(コントローラー)
   1.吸入ステロイド薬(ICS)
   2.長時間作用性β2刺激薬(LABA)
   3.配合剤(ICS+LABA)
   4.徐放性テオフィリン薬(SRT)
   5.抗アレルギー薬
   6.経口ステロイド薬
   7.抗IgE抗体
   8.アレルゲン特異的免疫療法
   9.その他(漢方薬、非特異的療法)

11 喘息治療ガイドラインについて
  A.重症度に応じた段階的薬剤投与法
  B.コントロールレベルに応じた段階的薬剤投与法(GINA2006)
  C.喘息自己管理のためのゾーン・システム

12 難治性喘息
  1.難治性喘息とは
  2.重症難治化の要因と病態
  3.難治性喘息の治療

13 喘息の早期介入
  1.何を目標にするのか
  2.早期喘息の診断基準
  3.適切な治療は?どのくらいの強さ、期間の治療か
  4.気管支喘息の早期介入療法の臨床研究の実際

14 急性増悪(発作)への対応
  A.発作の治療に用いる薬物(リリーバー)
  B.発作強度の評価法
  C.急性増悪時の家庭での対応
  D.発作強度に応じた治療法
  E.入院治療が必要な状況、退院の条件
  F.ICUでの治療が必要な状況

15 喘息死
  1.わが国の喘息死の実態
  2.今後の対応

16 特殊な喘息
  A.咳喘息
  B.アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)
  C.運動誘発喘息
  D.アスリートにおける喘息
  E.職業性喘息
  F.COPDに合併した喘息
  G.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
  H.アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg─Strauss syndrome)

17 特殊な状況での喘息
  1.ハイティーンおよび20代早期の喘息
  2.高齢者喘息
  3.妊娠中の喘息
  4.外科手術と喘息
  5.鼻・副鼻腔疾患を合併した喘息
  6.高血圧を合併した喘息

18 気管支喘息と心理的側面
  1.臨床研究
  2.喘息の心身医学的診断
  3.心身症としての診断基準と喘息のガイドライン

19 喘息診療の社会学
  1.吸入ステロイド薬の喘息管理への導入
  2.吸入ステロイド薬導入の臨床的効果
  3.吸入ステロイド薬導入の医療費に及ぼす影響
  4.喘息薬剤費の減少しない理由
  5.喘息管理における多剤投与の必要性
  6.まとめ

20 喘息治療の将来
  A.抗IgE療法
  B.抗サイトカイン療法
  C.気管支喘息に対する新規免疫療法
  D.ゲノム情報に基づくオーダーメイド医療

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