私の常用する
新 形成再建外科手術


著 者
著:光嶋  勲
(東京大学大学院医学系研究科形成外科学 教授)
発行年
2010年1月
分 類
形成外科学
仕 様
B5判・200頁・図65・カラー写真423点
定 価
(本体 9,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1856-9
特 色 
 本書は,これまで全世界に自らが開発した術式を発信し世界の形成再建外科をリードし続けてきた著者が,この30年間に国際誌に報告してきた新しい再建外科手術症例,過去10年間に海外・国内の講演時に紹介した術式を中心として,再建外科全領域が俯瞰できるようにまとめた著者渾身のビジュアルテキストである.
 近年の再建外科分野は,穿通枝皮弁の理論の確立と超微小外科手技の開発により急速な発展を遂げ,体全体を対象領域としていた時代から部位ごとにおける再建外科手技へと細分化が進んでいる.これに伴い分野別の専門書は多数出版されてきたが,いま全領域を網羅する最新の形成外科手術書が待ち望まれている.
 本書はこのような要望にお応えできるよう,やや難しくとも今後の普及が期待されるものも含め,著者の再建外科にかける熱い思いと持てる技術のすべてを披露し,豊富な術中カラー写真を中心に詳解,再建外科全領域を習得できる内容となっている.
 これからの再建外科専門医を目指す医師,若手形成外科医のみならず,整形外科医,耳鼻科医,脳外科医,口腔外科医,泌尿器科医,消化器外科医の方々の必携書として,ぜひ手に取っていただきたい.


●序   文●

 序文—近代再建外科の歴史
 本格的な近代再建外科の歴史は1960年代以後に始まったように思う。それは、この時期に本格的な臨床的応用が開始されたaxial pattern flapの概念と新しく始まった顕微鏡下の微小血管吻合術の連携があったからである。この理論と新技術の連携によって、1970年代には遊離組織移植が可能となり、形成外科のみならず外科系各分野において再建外科は急速な進歩を遂げた。その後、本邦において1990年前後より新しい穿通枝皮弁の概念が確立され、同時に超微小外科手術が開発され始め、2000年以後、各種穿通枝皮弁の欧米への発信がなされてきた。2010年以後は穿通枝皮弁の理論と超微小外科手技の連携によってさらなる再建術の進歩が遂げられるであろう。
 この穿通枝皮弁普及の背景に触れたい。1996年6月、著者は当時海外で唯一DIEP flapを用いた再建術を行っていたAllen(当時ルイジアナ州立大、ニューオリンズ)と国際マイクロ学会(シンガポール、マリオホテル)で初めて面会し、穿通枝皮弁の有用性について熱い議論を交わした。そして、将来的に穿通枝皮弁を広めるための国際的な手技の講習会の必要性をお互いに確認した。後日、Blondeel(ベルギー、ゲント大学)が加わり1997年6月に第1回目の国際穿通枝皮弁講習会(100名参加)がゲントで開催された。このとき筆者は欧米で初めてのfree ALT flap、Allenはfree DIEP flap、BlondeelがGAP flapをライブで行った。その後、これまでに15回の講習会が開かれ、毎年300〜500人が参加し続けている。2008年はガンガ病院(インド、コインバトール市)で開催された。初期の講習会に参加した30歳前後の若手マイクロ医が、現在、欧米を中心として各国の再建外科の新しいリーダーになりつつある。最近では、さらに2007年および2009年に第1回および第2回超微小外科講習会(国立シンガポール大)が開かれ、2010年3月には、第1回ヨーロッパ・スーパーマイクロ講習会(バルセロナ)が予定されている。
 このように過去50年間の間に再建外科においては穿通枝皮弁の応用という大きな変革があった。また、頭頸部、顔面、手・上肢、下肢、乳房、陰部、神経などの再建外科は当初は皆がすべての領域を専門として発展してきたが、最近では各々細分化され、これらの全領域の専門家はいなくなったようにも思える。これに伴い再建外科の各分野別の専門書は多数出版されているが、再建外科の最新領域を全分野で網羅した専門書は皆無となっている。これは、急速な術式の進歩に全領域の専門書が追従できていない状況が背景にあるように思われる。
 本書は、このような問題点を若干なりとも解消するために企画・出版されたものである。筆者が筑波大学に赴任した1983年から最近までの約30年間に国際誌に報告してきた新しい再建外科手術症例や過去10年間の海外と国内の講演時に紹介した術式を中心にまとめたものである。既になされている術式もあるが、やや難しく今後の普及が期待されるものも含まれている。今後の再建外科の専門家を目指す若手形成外科医のみならず、整形外科医、耳鼻科医、脳外科医、口腔外科医、泌尿器科医、消化器外科医などの役に立てれば幸いである。
 最近2人の大切な友人を失った。斬新な発想で常に新しい再建術を考案されていた佐々木健司教授(日本大学形成外科、享年60歳)と、約10年間筆者とともに手術を一緒に行い、岡山で多くの患者さんの再建治療を行っていた漆原克行先生(川崎医科大学形成外科、享年42歳)である。ここにお2人のご冥福をお祈りしたい。
 最後に、恩師である福田修(前東京大形成外科教授)、波利井清紀(前東京大学形成外科教授)、添田修吾(前筑波大学形成外科教授)、坂東正士(前都立駒込病院部長)、山田 敦(前東北大学形成外科教授)、森口隆彦(前川崎医科大学形成外科教授)、荒田次郎(前岡山大学皮膚科教授・院長)の諸先生のご指導に深謝します。本書の完成まで約2年間を要した。連日の手術の合間に単著で書きあげたためである。強力なサポートをして頂いた永井書店の山本美恵子さんに感謝します。

平成22年1月吉日
 光嶋  勲

■ 主要目次

I 形成再建外科の歴史

 I マイクロサージャリーを用いた形成再建術
  1 皮弁・穿通枝皮弁について
 
 2 手・上肢の皮弁
  1.三重切断再接着
  2.指動脈穿通枝皮弁(DAP flap)
  3.橈骨動脈穿通枝皮弁
  4.delayed venous anastomosis
  5.関節付き母指再建
  6.第2趾尖移植
  7.第2趾末節移植
  8.血管柄付き腸骨移植と拡大型wrap-around flapによる母指再建
  9.血管柄付き腓骨筋腱皮弁移植
  10 . 血管柄付き深腓骨神経移植
  11 . 副神経麻痺
  12 . 前腕・上腕の骨・軟部組織再建
 
 3 下 肢
  1.足関節前面で伸筋腱の露出する難治性潰瘍
  2.低温熱傷
  3.脂肪肉腫再発例
  4.足底の再発性難治性角化症に対する内側足底動脈穿通枝皮弁
  5.20年続く下腿遠位部後面の放射線性潰瘍
  6.脛骨前面扁平上皮癌
  7.膝窩動脈の閉塞による左下腿遠位部後面から足底にかけての広範な壊死
 
 4 顔 面
  1.鼻腔内から発生した扁平上皮癌
  2.小児期に右頬部の血管奇形切除がなされた右顔面神経麻痺
  3.出血を繰り返す動静脈奇形(AVM)
  4.口蓋出血を伴う再発癌 (扁平上皮癌) (キメラ型合併移植術)
  5.口蓋原発の腺様【嚢】胞癌の再発例
 
 5 頭頸部
  1.喉頭癌切除後の頸部全層欠損例
  2.舌癌—舌・口腔底欠損に対するDIEP flapによる再建
  3.ALT flapによる舌半切例の再建
  4.舌癌切除後の舌・口腔底の三次元的再建法
  5.舌癌—静脈皮弁による口腔底再建法
  6.下咽頭癌—前腕皮弁による頸部食道再建法
  7.頸部の動静脈奇形(AVM)例
  8.下顎腫瘍—下顎亜全摘例の再建
  9.進行舌癌—2本の茎をもつALT flapによる舌・口腔底広範欠損の再建法
 
 6 乳房・胸壁
  1.血管柄付き脂肪弁移植
  2.DIEP flapによる再建
  3.スーパーチャージ型の腹直筋皮弁による再建
  4.鎖骨下動脈の血行障害を伴う腋窩部難治性潰瘍
 
 7 陰部・腹部・仙骨部
  1.大腿外側近位部の脂肪肉腫
  2.労災事故による腸管破裂、腹壁の動的再建法
  3.脊損による仙骨部の巨大な褥瘡
  4.放射線による膀胱直腸瘻
  5.陰茎癌—知覚付きの橈骨前腕骨皮弁による尿道と陰茎の一期的再建
  6.性同一性障害(GID)に対する再建術
 
 8 超微小神経血管吻合を用いた形成再建術(スーパーマイクロサージャリー)
  1.指末節完全切断例
  2.先天性顔面低形成
  3.皮膚癌による右上眼瞼の広範欠損
  4.MRSA感染による気管軟骨の全周性欠損
  5.一次性リンパ浮腫
  6.二次性リンパ浮腫
  7.陰茎癌—放射線照射による陰茎の壊死
 
II ケーススタディ

 1.下肢のリンパ浮腫
 2.胸背動脈穿通枝皮弁による義眼床再建
 3.母指末節の再建
 4.指末節の再接着(細動脈吻合とdelayed venous anastomosis法の応用)
 5.下顎の再建

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