よくわかる 聴覚障害 難聴と耳鳴のすべて


著 者
編集:小川 郁(慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科 教授)
発行年
2010年5月
分 類
耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学
仕 様
B5判・400頁・127図・84表 カラー写真79点
定 価
(本体 8,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1862-0
特 色 
 これから聴覚障害を学ぼうとする専修医,研修医,医学生から第一線の臨床医まで,また看護師,薬剤師などコメディカルの方,言語聴覚士,臨床検査技師など聴覚障害者に直接接する機会が多い専門職の方まで,聴覚障害に関する共通の理解を高め,各疾患,各症候への認識を共有するために企図された聴覚障害の教科書.とくに,難聴と耳鳴の疫学・メカニズムからQOLの問題点まであらゆる項目を網羅しわかりやすく解説する.

●序   文●

●序 難聴と耳鳴のすべて
  日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えている。WHO(正確には国連)の定義によれば65歳以上の高齢者が人口の16%以上になると高齢社会、21%以上になると超高齢社会と呼ぶが、日本は2008年に超高齢社会に突入している。高齢者を取り巻く健康問題は多彩であるが、WHOの世界疾病調査でも高有病率三大疾病は難聴、鉄欠乏性貧血、片頭痛であったと報告されている。また、日常生活に支障をきたす障害(disability)の原因としては成人発症の難聴(感染症によるものを除外し、補聴器の入手可能性について調整後)がトップに挙げられている。このように有病率が高く、かつ生活障害度の高い難聴や耳鳴などの聴覚障害が特に高齢者の生活の質(QOL)に大きく影響することは明らかである。WHOによるQOLを阻害する疾病のランキングでも聴覚障害は7位にランクされている。聴覚障害がもたらす最も大きな問題はコミュニケーション障害であることは異論のないところであるが、他の感覚に比べて特に聴覚のもつ特殊性は聴覚と表裏一体の関係にある言語機能、そして聴覚と言語機能と深くかかわる情動反応と関係していることである。われわれのコホート研究でも高齢者の聴覚障害者がうつ病を発症する率は難聴のない対照群に比べて約3倍高いことがわかっている。このように聴覚障害は単にコミュニケーション障害のみならず、うつ病や認知症などの精神活動にも大きく影響し、その治療に際しては聴覚障害の背景にある精神活動をも考慮する必要があるなど、聴覚障害を扱う臨床医の守備範囲はますます広く、かつ深くなっている。このような疫学的、臨床的背景から、聴覚障害の臨床にかかわる第一線の臨床医から、これから聴覚障害を学ぼうとうする専修医、研修医、医学生、さらには看護師、薬剤師、言語聴覚士、臨床検査技師、臨床心理士など聴覚障害者に直接接する機会が多い専門職の方まで、聴覚障害に関する共通の理解を高め、各疾患への、または各症候への認識を共有することを目的に企画したのが本書である。
 聴覚障害の現状を把握するためには、まず、難聴と耳鳴の疫学から聴覚のメカニズム、聴覚障害の分類、病態、検査、さらには聴覚障害によるQOLをお読み頂きたい。聴覚機能の背景にある極めて複雑で精巧な解剖と生理、そして聴覚障害のQOLにかかわる特殊な問題点、そして、聴覚障害を評価するための検査法とその問題点などがわかりやすく解説されている。次いで、聴覚障害の原因となる中耳疾患、内耳疾患、そして後迷路・中枢疾患、聴覚障害に対する補聴器や人工中耳、人工内耳まで、日常臨床で遭遇する機会の多い疾患についてはすべて網羅し、各領域の第一人者による最先端の知見を盛り込んで頂いたつもりである。必要に応じて各項目を開いて頂ければ幸いである。
 新しい医療技術の進歩は極めて早い。本書の内容がいつまでアップデイトでいられるかはわからないが、現時点で臨床試験や開発が進められている分野を「カレントトピックス」として執筆して頂いた。中耳炎に対するワクチン療法、増加する難治性の好酸球性中耳炎、中耳手術の新しい材料、耳硬化症や感音難聴の予防法、遺伝性難聴の診断と遺伝カウンセリング、新しい最先端の画像診断法、そして新しい治療法としての蝸牛への薬剤直接投与法から遺伝子治療、再生医療、耳鳴に対する新しい治療法など、既に臨床応用されている技術から、近い将来に日の目を見るであろうと期待される新しい技術まで、それぞれの分野で世界をリードするエキスパートに解説して頂いた。
 聴覚障害は有病率も高く、QOLに対する影響も極めて大きい重要な疾病(症候)であるが、最先端の知見をも含めて、これまで臨床の現場で参考になるような系統的な成書は少なかった。本書が聴覚障害の臨床の最前線で座右の書となり、診療の一助になることを願っている。最後に、多忙な臨床の合間に、最新の知見を原稿としてまとめて頂いた執筆者の各位、に深く感謝して、本書の序としたい。
 平成22年5月吉日
 小川 郁

■ 主要目次

I.聴覚障害の疫学
 ■難聴の疫学
 ■耳鳴の疫学

II.聴覚のメカニズム
 ■伝音機構
 ■感音機構

III.聴覚障害の分類と発症機序
 ■音の知覚
 ■伝音難聴
 ■感音難聴
 ■感音難聴と伝音難聴の聞こえ方の違い
 ■耳鳴
 ■耳閉塞感

IV.聴覚障害のQOL
 ■聴覚障害のQOL評価の意義
 ■QOL評価のための質問紙法
 ■難聴と耳鳴とQOL

V.聴覚検査と聴覚障害
 ■聴覚検査の意義
 ■純音聴力検査と語音聴力検査
 ■伝音難聴評価のための聴覚検査
 ■感音難聴評価のための聴覚検査
 ■他覚的聴覚検査

VI.乳幼児の聴覚検査
 ■問 診
 ■診察室での簡単な検査
 ■乳幼児の聴力検査
 ■難聴を見逃さないために

VII.耳鳴検査
 ■耳鳴検査
 ■自己記入式の耳鳴検査
 ■心理検査
 ■画像検査

VIII.耳閉塞感の評価のための検査
 ■耳閉塞感を引き起こす疾患
 ■耳閉塞感の評価
 ■耳閉塞感の評価のための検査

IX.伝音難聴
 【1】 急性中耳炎と滲出性中耳炎
 【2】 耳管狭窄症と耳管開放症
 【3】 慢性中耳炎
 【4】 真珠腫性中耳炎
 【5】 耳硬化症
 【6】 中耳奇形
 【7】 中耳外傷

X.感音難聴
 【1】 突発性難聴
 【2】 外リンパ瘻
 【3】 メニエール病
 【4】 急性低音障害型感音難聴
 【5】 遅発性内リンパ水腫
 【6】 ステロイド依存性感音難聴
 【7】 急性音響性難聴と音響外傷
 【8】 ウイルス性難聴とムンプス難聴
 【9】 加齢性難聴
 【10】 騒音性難聴
 【11】 特発性両側性感音難聴と遺伝性難聴
 【12】 薬剤性難聴
 【13】 Auditory Neuropathy(Auditory Nerve Disease)
 【14】 聴神経腫瘍
 【15】 中枢性難聴
 【16】 機能性難聴

XII.聴覚障害と心身医学
 ■心身症の定義
 ■耳鼻咽喉科領域の心身症とその周辺疾患
 ■聴覚障害の心身医学
 ■心身医学的診断と治療計画

XIII.聴覚障害と漢方
 ■漢方の適応となる疾患

XIV.聴覚リハビリテーション
 【1】 補聴器
 【2】 人工中耳
 【3】 人工内耳

CURRENT TOPICS
 【1】 中耳炎に対するワクチン療法
 【2】 好酸球性中耳炎における聴覚障害
 【3】 耳硬化症は予防できるか?
 【4】 最近の人工耳小骨
 【5】 感音難聴と酸化ストレス
 【6】 感音難聴とアンチエイジング
 【7】 新生児聴覚スクリーニング
 【8】 遺伝性難聴と遺伝カウンセリング
 【9】 蝸牛の新しい画像診断
 【10】 蝸牛への薬物直接投与法
 【11】 感音難聴に対する再生医療の可能性
 【12】 感音難聴に対する遺伝子治療の可能性
 【13】 骨導超音波補聴器
 【14】 聴性脳幹インプラント(ABI)
 【15】 耳鳴の成因と1/fゆらぎ音による音響療法
 【16】 耳鳴に対するTMS治療

【附録】 聴覚障害に関する基礎資料
1.身体障害者障害程度等級表
2.慢性中耳炎に対する鼓室形成術Tympanoplastyの術式・
  アプローチの名称について
3.聴力改善の成績判定について
4.伝音再建法の分類と名称について
5.突発性難聴:診断の手引き
6.突発性難聴・聴力回復の判定基準
7.突発性難聴の重症度分類
8.特発性両側性感音難聴診断基準とその解説
9.ムンプス難聴診断基準
10.急性低音障害型感音難聴診断基準(案)
11.メニエール病診断基準
12.外リンパ瘻診断基準
13.小児人工内耳適応基準
14.成人人工内耳適応基準
 

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