実践 救急ナーシング



著 者
編集:丸川 征四郎(医療法人医誠会医誠会病院 院長補佐)
発行年
2010年6月
分 類
看護学一般
仕 様
B5判・292頁・58図・61表 写真74点
定 価
(本体 6,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1864-4
特 色 
 最近の救急現場は激しく変化している.大きくは,医療者が病院の門を出て負傷者を診療する,そして市民への救急蘇生啓発とその担い手として市中へ活動を広げたことであろう.救急医療の既成の境界を超える思想と体制が受け入れられ,発展しているのがいまの状況である.
 本書は、救急医療現場に携わるすべての看護師に,激変の時代を生き抜くために欠かせない知識,技術,そして思想を提示するために企図された.救急現場での看護師は,しばしば患者・家族の「不満のはけ口」や「医療訴訟の被告人」となりうる.「誠実と奉仕の精神」を掲げるだけでは看護ケアが全うできない現在の看護師に,職業人としてプライドと,より高い専門的知識と技術を持っていただき,患者家族との関係、法と組織の関係の中で身を処す方策や手順を示す.

●序   文●

￿￿￿￿ 最近、救急現場が激しく変化していることは誰の目にも明らかである。何が、どう変わったかを一言で表現するのは容易でないが、敢えて表現するなら「医療者が病院の門を出て負傷者を診療する」に代表されるように、既成の境界を超える思想と体制が受け入れられ、発展していることである。
 その源流は言うまでもなく1995年1月17日の阪神・淡路大震災である。多くの医療施設から災害救護班が神戸に派遣された。中には病院幹部の「事故に遭っても責任もてないぞ!」という保身的な制止を振り切って自己責任で災害現場に飛び込んだ救護班もあった。その後の新潟県中越地震、能登半島地震、そして最近では秋葉原集団殺傷事件などを経験し、また日本版DMAT創設などを通して「医療者が病院の門を出る」のは当然となり、市民でさえ「トリアージ」を知るまでに啓発された。
 もう1つの変化の要因は2005年のわが国初の心肺蘇生ガイドライン策定と2004年の市民へのAEDの認可である。心肺蘇生講習(コース)が爆発的な広がりをみせ、認定証を取得した若い医師や看護師がインストラクターとなって、医療界の権威者らに心肺蘇生の知識と技術を教えるという旧来のヒエラルキーを逆転させ、市民への救急蘇生啓発の担い手として市中へ活動を広げた。
 また、医療従事者と医療組織に対する社会的潮流も重要な変化の要因となった。市民への情報開示やインターネットによる医療情報の供給、患者の権利意識の高まり、新臨床研修開始による大学病院医局権威の低下、そして産科、小児科・救急診療体制の弱体化は、ダイレクトに救急医療現場を襲い、変化を推し進めている。
 このような社会と医療環境の変化にあって、しばしば看護師は患者・家族の「不満のはけ口」や「医療訴訟の被告人」とされるようになり、「誠実と奉仕の精神」を掲げるだけの医療者では看護ケアが全うできなくなり始めた。職業人としてプライドをもち、より高い専門的知識と技術で武装し、患者家族との交渉術を身につけ、法と組織の中で身を処す方策や手順の理解も不可欠になってきた。
 本書は、救急医療現場に携わるすべての看護師に、激変の時代を生き抜くために欠かせない知識、技術、そして思想を提示できればと考え企画した。1つの章でも、1頁でも、あるいは1文でも共感して頂き、お役に立てれば幸いである。
 平成22年6月吉日
 丸川征四郎

■ 主要目次

第 I 部 救急ナーシングの「心理社会学」

1.救急看護のプライド
 1 専門的能力を培う
 2 多忙の中でも患者ニーズに的確に応える
 3 救急看護師の育成
 4 救急看護師のプライドをかけて
2.精神科医からみた医療現場におけるトラウマ:暴力とクレーマーへの対応策
 1 暴力、クレーマーとは
 2 医療現場における心的外傷の対応
   具体的事例に学ぶ 暴力とクレーマーへの対応策
3.救急疾患のターミナルケア:誇り高き臨終とは何かを理解する
 1 救急疾患のターミナルケアとは
 2 突然の臨終での配慮
 3 尊厳ある死
 4 尊厳ある見送り
4.救急医療における看護師が関与する医療訴訟・医事紛争の予防と対策
 1 医療過誤に対する民事・刑事・行政上の3つの法的責任
 2 看護業務に関連した医療訴訟判例から得られる教訓
 3 医療事故・有害事象発生時の対応
 4 医療事故防止と医療安全の基本的考え方
5.救急医療現場のナーシング・コンシェルジュ
 1 コンシェルジュの由来
 2 「貴方がいてくれてよかった」と感謝される人
 3 飾りのないサービスで安心と満足を提供
 4 ナーシング・コンシェルジュの有様
 5 救急部門のナーシング・コンシェルジュ
 Contributed View 患者・家族へのナーシング・コンシェルジュ
 具体的事例に学ぶ 患者・家族へのナーシング・コンシェルジュ
6.バーンアウト回避への助言
 1 バーンアウトとは
 2 救急看護とバーンアウト
 3 バーンアウト回避に向けて
 具体的事例に学ぶ 「ターニングポイントを乗り切り、バーンアウトを回避した例」

第 II 部 救命のための先進看護

1.救命看護技術(技術の適応、ポイント、合併症)
 1 気道確保と用手的人工呼吸
 2 除細動
 3 末梢静脈路確保・骨髄穿刺
 4 気管挿管
 5 救命体位(体位管理)
 6 止 血
 7 心肺蘇生
 8 胸腔穿刺
 9 経鼻胃管挿入
 10 緊急気管切開
 11 CVカテーテル留置
 12 薬剤(アドレナリン、アトロピン、リドカイン、カルシウム、ジアゼパム)
2.救命アセスメントと緊急対応
 1 緊急検査のパニック値
 2 緊急画像所見
 3 その他のパニック所見
 4 致死的な心電図
 5 致死的な症候(呼吸、循環、代謝)
3.治療処置のトラブルシューティング(早期発見、予測と予防)
 1 経鼻胃管(NGチューブ)
 2 緊急気管挿管
 3 気管切開
 4 末梢静脈ルート
 5 内頸静脈穿刺
 6 導尿カテーテル

第 III 部 緊急トランスポーテーション

1 総 論
 1.病院間搬送
 2.病院内搬送
2 搬送中のトラブルと対象
 1.心肺停止
 2.低酸素血症・人工呼吸器トラブル・気管チューブトラブル
 3.血圧低下・ルートトラブル
 4.転落
 5.嘔吐・誤嚥

第 IV 部 必読・必携—救急病態と所見の基礎知識

1.心肺停止と心肺蘇生法(AEDを含む心肺蘇生と脳低温療法)
2.緊急疾患の対応
  [内因性疾患]
 1 緊張性気胸
 2 消化管穿孔
 3 頭蓋内占拠病変
 4 緊急高血圧
 5 心臓緊急
 6 血糖異常
 7 大血管緊急
 [外因性疾患]
 1 外因性気道閉塞
 2 外傷性出血性ショック
 3 頸椎・頸髄損傷
 4 高エネルギー外傷
 5 頭部損傷
3.緊急手術と緊急血管造影・インターベンションの準備
 1 緊急手術の準備
 2 緊急血管造影・インターベンション時の準備
4.患者・家族への支援
 1 患者・家族への病状治療説明への支援
 2 各種処置時の声かけ

第 V 部 緊急現場への救急看護ミッション

1.院内救急コール
 1 院内で心肺停止を起こさないための予防策
 2 院内救急コールに対する準備と対応
 3 院内での急変患者に対する迅速な対応
 4 医療スタッフへの教育について
 5 院内救急コール後の対応と事後検証
 6 事 例
 具体的事例に学ぶ 院内救急コール:ナースの役割
2.ドクターカー
 1 ドクターカーの運用方法
 2 千里救命救急センターのドクターカーシステム
 具体的事例に学ぶ ドクターカーナースの役割(知識・技能・機能)
3.エアレスキュー
 1 エアレスキューとは
 2 ドクターヘリ出動の要件
 3 ドクターヘリ出動の流れ
 4 ドクターヘリ事業の現状
 5 フライトドクター/ナースの資格
 6 フライトドクターの訓練・活動評価
 7 ドクターヘリの問題点
 8 ドクターヘリの展望
 具体的事例に学ぶ フライトナース
4.DMAT(Disaster Medical Assistance Team)
 1 DMATの必要性
 2 DMATの定義と目指すもの
 3 DMATの派遣と活動の流れ
 4 DMATの教育研修
 5 日本DMATに指名されないが参加したい!
 6 DMAT隊員以外にはDMATは関係ないのか?
 具体的事例に学ぶ DMAT看護師に求められること
5.国際救援
 1 災害のフェーズと救援活動
 2 参加の要件
 3 派遣の準備
 4 実際の救援活動
 具体的事例に学ぶ 国際救援におけるナースの役割:知識・技術、そして能力


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