プレホスピタルMOOK 10


後輩たちに伝えたい救急現場活動のプロの技


著 者
監修
 石原  晋(公立邑智病院 院長)
 益子 邦洋(日本医科大学 教授)
編集
 安田 康晴(京都橘大学現代ビジネス学部救急救命コース 准教授)
発行年
2010年11月
分 類
救命・救急医学
仕 様
A4判・174頁・24図・写真274点・11表
定 価
(本体 4,800円+税)
ISBN
978-4-8159-1871-2

特 色 
 産業界と同様に救急現場でも,現場経験の豊富な団塊の世代の救急救命士(救急隊員)が大量退職する時代を迎えた.本書は,彼ら諸先輩の救急現場経験から得たExperience(経験)に基づくプロの技術を集約し,そのExperience(経験)をEvidence(根拠)として残し,後輩となるこれからの救急救命士や救急隊員へ伝え育てることの糧となるよう企図された救急現場活動技術集である.
 近年,団塊の世代の救急救命士(救急隊員)が大量退職し,経験の浅い救急救命士や救急隊員を主とした救急隊編成が多くなった.彼らが受けた科学的根拠(EBM)に基づき「基本手技」を重要視した標準化教育は,観察・処置能力を一様に向上させた.同じように豊富な現場経験から得られた「技術(わざ)」は,彼ら経験の浅い救急救命士や救急隊員に今後重要となってくるはずである.
 本書は,長年の救急現場活動経験から得られた貴重なExperience(経験)を,Evidence(根拠)として残すために研究し現場活動に活かすために企図された.
 最も重要なのは基本となる十分な訓練と地域にマッチした活動である.その上に,先輩が後輩を育てる一助ととして,円滑な救急現場活動に活かし地域住民の利益のために本書を活用していただきたい.

●序   文●

 平成3年に救急救命士制度が発足し、19年が経った。この間包括的指示下での除細動や気管挿管さらには薬剤投与が可能となり救急救命士が行う処置範囲が大きく拡大し、救命率に大きく寄与してきた。
 近年、産業界では高度な技術を下支えしてきた団塊の世代の熟練労働者が定年退職し、技術の継承が問題となっている。救急現場も同様で、現場経験の豊富な救急救命士(救急隊員)が団塊の世代を迎え大量退職され、現場経験の浅い救急救命士や救急隊員が主体となった救急隊編成が多くなってきている。その影響からか、救急現場活動での観察・処置にかかわるトラブルが多く見受けられ、比較的単純な基本的手技や観察力の不足から生じる誤った判断に基づいた救急活動であることも指摘されている。これらトラブルの理由には、救急救命士はもちろんのこと、一般の救急隊員の観察・処置に対する手技の低下ではないかと考えられる。
 職人の世界では、先輩らのさまざまな技術を自らが盗み取り、また先輩からの厳しい指導のもとで自分のものとして技術が継承されてきた。救急隊員の世界では、諸先輩から教え学ぶことが多かったが、近年標準化教育が進み救急現場での観察・処置が標準化され、科学的根拠(EBM)に基づいた救急現場での観察・処置能力は一段と向上してきた。しかし、標準化教育の影響もあって、救急救命士標準課程テキストや救急隊標準テキスト、○○ガイドラインに準拠した「基本手技」のみが重視され、現場経験から得られた「技術(わざ)」が単なる経験論として聞き入れられなくなってきているのも事実である。
 EBMとはEvidence-Based Medicineであり、科学的根拠を基にした活動が行わなければならない。しかし、救急現場は病院内とは異なり、出場する事案の一つひとつがまったく異なる環境で活動しなければならず、Experience(経験)に基づいた活動も必要となってくる。本書で紹介した中には既にEvidence(根拠)として検証されているものもあるが、今後はExperience(経験)をEvidence(根拠)として残すために研究などによって検証することが必要であり、その作業を行わなければならない。
 本書の記載は長年の救急現場活動経験から得られた技術であり、本書をみて簡単に救急現場活動で行えるものではない。実際の救急活動に活かす前には、十分な訓練を重ねることと地域メディカルコントロール協議会や所属の活動基準に適合するかどうかを確かめて頂きたい。また、「基本なくして、応用なし」である。これらの手技を行ううえで基本手技を習得しておくことは言うまでもない。
 最後に、本書の執筆にあたり快諾頂いた救急隊員の皆さま、またその執筆にあたり承諾頂いた所属の皆さま、さらに執筆に際しご支援頂いた家族・関係者一同に深く感謝致します。
 諸先輩の救急現場経験から得たExperience(経験)に基づく技術を集約した本書が、職人の世界で行われているように先輩が後輩を育てる一助となり、円滑な救急現場活動に活かされ、地域住民の利益となれば本企画をした編者としてこのうえない喜びであり、それを切に願うものである。
 平成22年11月吉日 安田康晴

■ 主要目次


I 観 察 編

1 呼吸音観察の注意点と工夫
  —救急現場での呼吸音観察の注意点と声音振盪を利用した胸部観察について—
2 脈拍・血圧測定の注意点と工夫
3 パルスオキシメーター使用による血圧測定の注意点と工夫
4 針振れによる血圧測定の注意点と工夫
5 血圧測定時のマンシェットの汚染防止の注意点と工夫
6 パルスオキシメーター装着の注意点と工夫
7 パルスオキシメーター管理の注意点と工夫
8 救急現場での面談の注意点と工夫
9 接遇の注意点と工夫㈰
10 接遇の注意点と工夫㈪
11 小児傷病者の観察と工夫
12 救急現場での小児観察の工夫
13 骨伝導補聴器使用の注意点と工夫
14 難聴者に対するコミュニケーションの工夫—聴診器を用いて—
15 寒冷環境下での観察の注意点と工夫
16 体温測定の注意点と工夫
17 瞳孔観察の工夫
18 創傷処置の注意点と工夫
19 着衣裁断の注意点と工夫

II 処 置 編

1 バッグ・バルブ・マスク人工呼吸の注意点と工夫
2 さまざまな状況での気道管理の注意点と工夫
3 浅速呼吸時の補助換気の注意点と工夫
4 高齢者(口角のない傷病者)の注意点と工夫
5 開口障害のある傷病者への気道確保の注意点と工夫
6 傷病者搬送時の気道確保の注意点と工夫
7 バックボード固定時の気道確保の注意点と工夫
8 気管支喘息傷病者への呼吸介助の注意点と工夫
9 応急手当講習でのTシャツを使用した上肢固定方法
10 ショックパンツ使用時の注意点と工夫
11 寒冷環境下におけるバックボード固定の注意点と工夫
12 スクープストレッチャー固定の注意点と工夫
13 救急現場活動の安全管理の注意点と工夫—感染防止対策を含む—
14 救急毛布カバーの工夫
15 サージカルテープ切り方の工夫
16 頸椎カラー装着の注意点と工夫

III 搬 送 編

1 ストレッチャー事故防止の注意点と工夫
2 ストレッチャー操作の注意点と工夫
3 スクープストレッチャー使用の注意点と工夫
4 車両下部からの救出方法の注意点と工夫
5 バックボード収容の注意点と工夫—階段での収容・3人でのログリフト—
6 傷病者搬送時における工夫
7 新生児の低体温防止の注意点と工夫
8 傷病者への痛み軽減の注意点と工夫
9 病院連絡の注意点と工夫 内田麻美

IV 特定行為編

1 ラリンゲアルマスク使用の注意点と工夫
2 ラリンゲアルチューブ使用の注意点と工夫
3 喉頭展開に用いるスニッフィングポジション用救急枕の改良について
4 気管挿管確認時の注意点と工夫
5 静脈路確保を成功させるひと工夫
6 静脈路確保・薬剤投与後の資器材廃棄の注意点と工夫
7 輸液バッグの保持の注意点と工夫

V 集団災害編

1 集団災害訓練の注意点と工夫
2 トリアージタッグ使用の注意点と工夫


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