リウマチ病セミナーXXI


著 者
監修 七川 歡次(滋賀医科大学名誉教授)
発行年
2010年12月
分 類
膠原病・リウマチ
仕 様
B5判・242頁
定 価
(本体 8,200円+税)
ISBN
978-4-8159-1872-9
特 色 
 リウマチ学のいまを知らせる好著.本セミナーは,1990年以来毎年発行されて,今回で21冊目.
 内容は,リウマチ病の捉え方に大きく影響する新しい知見とそれに基づく新しい考え方.リウマトロジーの醍醐味を教えてくれるリウマチ病研究の歴史.そして,今やリウマチ学の最大のテーマである骨粗鬆症の最新知見.多彩で新しい薬剤のレビュー,大きく進歩する手術技術などを取り上げる.
 常に本領域の水先案内人として,最新の研究成果・治療データを提供してきた.多彩で日進月歩の進展をみせるリウマチ学を一流の研究者たちが思う存分成果を披露している.


●序   文●

 昨年の第20巻には良い論文が多く,わが国のオリジナルなテーマも少なくなかったので,元気づけられ,その序文にリウマチ元年といったらどうかと書かせてもらったが,今年も勝るとも劣らない論文が多数で,リウマチ学の分野における臨床研究,開発,発見が着実に進んできた証拠ではないかと,嬉しく思っている.
 なにはともあれ生物製剤の出現によって,リウマトイド関節炎(RA)に対する印象が変わり,製薬会社は完全治癒させ得る疾患であると捉えたいようである.それには長いfollow-upが必要であるが,ひとまずremissionという考え方を適用して完全寛解という風に言っている.他方,日常生活に支障のない程度の寛解でよいのではないかと熟練した医者が言い出し,これもなかなか説得力がある.そこで,remissionとは一体どういうものなのかが当然問題となるが,アメリカのもの,ヨーロッパのもの,両方かね合ったものなどあって,どれが実用的かということにもなる.そこで批判精神の旺盛な塩沢俊一教授に“関節リウマチの寛解基準”ということで執筆をお願いしたので一読していただければと思う.
 もし,RAの薬剤による完全治癒が望み難いのであれば,医者としては当然予防を考えざるを得ない.しかし一見取り付く島もないように見える(私はリウマチ病セミナーのシリーズ7巻に書いているが).このさい問題となるのは,RA発症にかかわる環境因子,あるいは生活習慣ということになり.これに関連して本巻では前田晃先生が“リウマチ病とアルコール”について書いている.適度の飲酒が発症を防ぐという論文が海外で相次いで出ている.このさい“生活習慣QOLの測定法”が問題となり,玉腰暁子先生を煩わしたので参考にしていただきたい.今後この方面での臨床研究が望まれる.
 やはり生物製剤の関心は高く,本書では大島至郎先生に“生物学的製剤と感染症”について書いていただいた.佐伯行彦先生には“生物学的製剤Up-date”ということでお願いした.アメリカで小分子の経口剤が開発され,臨床治験中とのことであり,一段と画期的なことになるだろう.また,疾患の病態によって生物製剤の効果が異なるということがあり,その選択が課題になっている.横田俊平教授による“「炎症病態」からみた若年性特発性関節炎”では,全身炎症性タイプのものには抗IL-6が著効を示すと示唆に富んだ成績を出されている.他の慢性全身性炎症疾患でも患者による差異があるのは当然で,これに関する臨床研究データの蓄積が期待される.
 同じく,吉崎和幸教授に“IL-6阻害によるAAアミロイドーシスの新規治療”について書いていただいたが,アミロイドーシス克服に貢献するものと思われる.少し趣が異なるが,石井優先生の秀逸な論文があるので紹介したい.これは“脂質メディエーター・スフィンゴシン1リン酸(SIP)を標的とした新しい関節リウマチ治療薬の開発”で,免疫抑制作用のみならず,破骨細胞やその前駆細胞の遊走,位置決めを制御していることを発見され,骨吸収抑制作用をもち,RA治療に最適の薬剤として,開発中とのことである.その成果を強く期待している.
 リウマチ学の分野での長年の課題はsclerosisに関するもので,治療も難しく,原因究明にも大きな成果はない.しかし患者は日常に見られ常に魅力ある研究課題になっている.
 “強皮症2009(尹浩信教授)”では最近の進歩が述べられている.その中で,自己抗体に関して抗RNA polymerase V抗体のELISAが本邦で開発され,その有用性が報告されたということである.また,遺伝的素因に関して,Dieude PらがSSc 427名と380名の2集団で検討し,TT genotypeは肺線維症に優位に相関し,IRF5 rs20004640TT genotypeはSSc発症と関連すると報告している.患者の多さに目を見張ったが,この仕事は今年のフランスリウマチ学会のplenary sessionで発表されており,欧州連合の仕事であって,臨床研究では一国だけでやり難い点があることを示していて,私にはきわめて印象的であった.
 結合組織病における肺高血圧症は疾患の予後を左右する合併症なので,重要な研究テーマとなっている.“肺高血圧症2009”として前田恵治先生に書いていただいたが,行き届いた論文で感謝している.実地医家に参考になるところ大きいと思う.
 まれではあるが薬剤(カドリニウム)による“腎性全身性線維症(NSF)”が注目されている.八田和大先生の論文はすぐれたレビューであって,日常の臨床で心得ておくべき必須の知識なので一読されたい.
 sclerosisの治療薬剤が望まれるが,本書では“Imatinib”について,緒方篤先生に書いていただき,他の論文でもこの薬剤が言及されているので参考にしていただきたい.
 自己炎症症候群は前巻でも塩沢俊一教授にレビューしていただいたが,今回西小森隆太先生に小児科の側から症例を提示していただき,この疾患の認識が深まった.自己炎症の概念は慢性炎症性疾患に適用されていて,痛風もこのジャンルに数えられる.分かりやすく,参考となる論文で有難い.
 骨壊死については骨の病理としてきわめて興味ある研究課題であり,今回“大腿骨頭壊死と脂肪細胞”という最もアトラクティブなところを熊谷謙治先生らに報告してもらっている.その発生機序に興味の盡きないものがある.現在人工関節置換術で患者は救われるが,ステロイドとの密接なかかわりもあり,また“ビスフォスフォネートと関連した顎骨壊死(藤井智子先生)”もあり,いずれも予防が望まれ,今後の発展に期待している.
 紙数が盡きてきたので,オステオポローシスや鎮痛薬剤,自律神経とリウマチ症状(これは西林保朗先生による“星状神経節の臨床”),さらには後藤眞先生の老化に関する卓越した論文“inflammageingと関節リウマチ”はいずれもリウマチの切実な研究テーマであるが割愛させていただく.強直性脊椎炎に関するもの(森幹士先生),サルコイドーシスのリウマチ症状の一つとしての“脊髄サルコイドーシス(岩●【崎】幹季先生ら)”,“母指CM関節の手術(正富隆先生)”その他にも触れたいが止むなく終わることにする.
 一読しておわかりのように,リウマチ学は随分と広い臨床領域をカバーしている.志水正敏先生の“脳とリウマチ病”,田中寿一先生の“サッカーとスポーツ傷害”に至るまで,人間の全体像にかかわっている,そういうものと認識していただけたらと思いあえて網羅的な文章となったがお許し願いたい.
 2010年12月 七 川 歡 次  

■ 主要目次

炎症リウマチ
 関節リウマチの寛解基準
 Inflammageing(炎症性老化・加齢)と関節リウマチ
  −われわれは,環境からの攻撃による穏やかな慢性炎症に
  包まれて老いていくのか?−
 ASの病態に関する新知見
 「炎症病態」からみた若年性特発性関節炎
 強皮症2009
 腎性全身性線維症(NSF:Nephrogenic systemic fibrosis)
 自己炎症症候群
 リウマチ病とアルコール
 肺高血圧症2009
 脊髄サルコイドーシス

骨関節,脊椎,神経
 大腿骨頭壊死と脂肪細胞
 サッカーとスポーツ傷害
 星状神経節の臨床
  −温故知新:“健康とは”からアプローチする全人的ケア−

燐・カルシウム代謝
 骨粗鬆症の新しい治療薬
ビスフォスフォネートに関連した顎骨壊死
骨折リスクの評価

検査,評価
 生活習慣・QOLの測定法
 RAおよびASにおけるMMP3測定の有用性

生物学的反応
 AdipocytokineとOA
 脳とリウマチ病
 脂質メディエーター・スフィンゴシン1リン酸を標的とした
  新しい関節リウマチ治療薬の開発

治療と副作用
 生物学的製剤と感染症
 生物学的製剤Up-date
 IL−6阻害によるAAアミロイドーシスの新規治療
 Imatinib
 リウマチの痛みと鎮痛補助薬
  −Anticonvulsants(抗てんかん薬)と抗うつ薬−
 線維筋痛症(FM)の新しい治療薬
 ボツリヌスtoxinの臨床応用
 炎症リウマチ治療中のワクチン接種

手   術
 母指CM関節(手根中手関節)の手術

Drug Information


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