抗菌薬選択ガイド 耐性菌を増やさないために




著 者
著:
中村  功(前山口県立中央病院内科部長)
発行年
2010年12月
分 類
感染症・AIDS
仕 様
A5判・182頁・5図・60表
定 価
(本体 5,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1874-3
特 色 
「敵を知り 己を知れば 百戦危うからず」 孫子
 抗菌スペクトルが広く高価な新しい抗菌薬を,その長所と短所を知らないまま漫然と使用してはいないだろうか? 今日の臨床医は,夥しい数に達している抗菌薬の使用において,病原細菌の特性(疫学的事項や抗菌薬感受性など)を熟知し,最適の抗菌薬を合理的に選択する能力を身につけていなければならない.本書はそうした「考える医師」になるための実践書である.
 著者は,「抗菌薬の選択毒性を重視し、人の細胞には存在しない細菌の細胞壁に作用するペニシリン系やセファロスポリン系抗菌薬などが理想的で、抗菌スペクトルは狭いほど良いとの信念に基づいて抗菌薬を使用」するという信念を持っており,本書執筆にあたってもこの方針が貫かれている.
 常に最新情報に注目し,また「考える医師」であってほしい.著者の思いがそそぎ込まれた本書を是非手にとっていただきたい.

●序   文●

 次々と市販され夥しい数に達している抗菌薬を効果的に使用するには、各抗菌薬それぞれの特徴を熟知したうえで合理的に使い分ける必要がある。これは感染症専門医にとってさえ必ずしも容易ではない。
 抗菌スペクトルが広く高価な新しい抗菌薬を、その長所と短所を知らないまま、感染症・抗菌薬療法に詳しくない先輩の真似をして、あるいは製薬メーカーの宣伝だけを鵜呑みにして、安易に使用する習慣が改められるよう願って止まない。
 本書は拙著「臨床細菌学ガイド」(永井書店,2003)の姉妹編に相当するものである。同書の「あとがき」に引用した格言とその解説は本書にも当てはまるのでここに再掲する;
 「敵を知り 己を知れば 百戦危うからず」  孫子
 感染症の敵である病原微生物の特性、すなわち疫学的事項や病原因子、抗菌薬感受性などを熟知したうえで、武器として使用する抗菌薬の抗菌スペクトルや病巣移行性、作用機序、相互作用・副作用、薬価などを考慮して最適の抗菌薬を使用すれば感染症の治療に成功する確率は極めて高くなる。
 抗菌薬の選択にあたって最も重要な点は抗菌薬(縦糸)と病原菌(横糸)の適合である。本書では第2部で縦糸の抗菌薬について、第3部で横糸の病原菌を推定して行う経験的治療について、 第4部で特定の病原菌に最適の特効薬治療について記述した。
 常用・常備する抗菌薬は原則として1系統1剤で十分である。使用した抗菌薬が奏効しない場合に同系統の他の薬剤に変更するのは無意味に近く、抗菌薬全体を見渡して最適と思われる他系統の薬剤に変更するのが正道である。
 適切な抗菌薬を選択できたらしめたもので、治療は半ば達成されたに等しく、併せて抗菌薬の病巣移行性や用法・用量、相互作用・副作用などを考慮すれば万全となる。
 実際に最適の抗菌薬を選択するには、どの系統の抗菌薬を選ぶのが最善であろうか。筆者は抗菌薬の選択毒性を重視し、人の細胞には存在しない細菌の細胞壁に作用するペニシリン系やセファロスポリン系抗菌薬などが理想的で、抗菌スペクトルは狭いほど良いとの信念に基づいて抗菌薬を使用しており、本書の執筆にあたってもこの方針を貫いた。一方、遺伝子組み替え食品の安全性がいまだ保証されていないように、DNAを標的とする抗菌薬には抗菌活性以外に人体に好ましくない未知の作用が潜在している可能性も否定できないので乱用を慎むのが賢明と思われる。
 本書は抗菌薬療法の手引き書ではなく、あくまでも最適の抗菌薬を選ぶ際に考慮すべき資料を提供したつもりである。本書に記した抗菌薬や病原細菌の抗菌薬感受性などは固定的ではなく、時とともに変化してゆく。臨床医は永遠に続く抗菌薬と耐性菌のイタチごっこに遅滞なく対応できるよう、常に最新情報に注目してゆく必要がある。
 抗菌スペクトルが広い抗菌薬の乱用は耐性菌の増加や菌交替症のみならず医療費の高騰にもつながるので極力慎まねばならない。抗菌薬使用中・使用後にClostridium difficile腸炎が頻発する場合には、主治医は医原性疾患を起こしたと反省し、適切な抗菌薬の選択法を学ぶべきである。加えて日常汎用されている広域抗菌薬ならびに消毒薬に耐用のAcinetobacter baumaniiやBurkholderia cepaciaなどが院内感染症の病原菌として重視されるようになった今日、臨床医は病原細菌の特性(疫学的事項や抗菌薬感受性など)を熟知したうえで最適の抗菌薬を合理的に選択する能力を身につけていなければならない。本書が「考える医師」の育成に些かでも貢献すれば幸いである。
 最後に、筆者は製薬メーカーとは無関係であり、純粋に科学的・臨床的な立場で執筆したことを明記しておく。
 2011年1月吉日 中 村  功
付記 :本書で使用した抗菌薬の略号は日本化学療法学会制定の「新抗微生物薬略語一覧表」に従った。

■ 主要目次

第1部 抗菌薬選択の要点

1 目標を定める—病原菌推定〜確定
2 病原菌の抗菌薬感受性と抗菌薬の抗菌力との関係—感性susceptible(S,+++)の意味
3 抗菌スペクトルが広ければ良いとは限らない—抗菌スペクトル広狭の意味
4 消化管から吸収されない抗菌薬
5 尿中へ排泄される抗菌薬
6 糞便中へ排泄される抗菌薬
7 髄液への移行性が良い抗菌薬は少ない—「血液-脳関門」
8 細胞内移行性が良い抗菌薬は限られている
9 抗菌薬の多剤併用療法
10 抗菌薬を変更する際に検討すべき3点
11 細菌の構造—抗菌薬の作用機序ならびに耐性機序を理解するために

第2部 抗菌薬の特徴

1 ペニシリン系抗菌薬の特徴
2 セファロスポリン系抗菌薬の特徴
3 その他のβ-ラクタム系抗菌薬の特徴
4 グリコペプチド系抗菌薬の特徴
5 アミノグリコシド系抗菌薬の特徴
6 マクロライド系抗菌薬とその類似薬の特徴
7 テトラサイクリン系抗菌薬の特徴
8 その他の蛋白合成阻止性抗菌薬の特徴
9 キノロン系抗菌薬の特徴
10 スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤の特徴
11 抗結核薬の特徴
12 抗菌薬の要約

第3部 抗菌薬選択の実際:経験的治療と特効薬治療

I . 経験的治療
II . 特効薬治療

1 菌血症の抗菌薬療法
 I . 菌血症の経験的治療
 II . 菌血症の特効薬治療
2 感染性心内膜炎の抗菌薬療法
 I . 感染性心内膜炎の経験的治療
 II . 感染性心内膜炎の特効薬治療
3 髄膜炎の抗菌薬療法
 I . 髄膜炎の経験的治療
 II . 髄膜炎の特効薬治療
4 急性中耳炎・副鼻腔炎の抗菌薬療法
 I . 急性中耳炎の抗菌薬療法
 II . 急性副鼻腔炎の抗菌薬療法
5 肺炎の抗菌薬療法
 I . 肺炎の経験的治療
 II . 肺炎の特効薬治療
6 腹腔内感染症の抗菌薬療法
7 胆嚢炎・胆管炎の抗菌薬療法
8 消化管感染症の抗菌薬療法
 I . 消化管感染症の経験的治療
 II . 消化管感染症の特効薬治療
9 尿路感染症の抗菌薬療法
10 骨盤内感染性疾患の抗菌薬療法
11 皮膚・軟部組織感染症の抗菌薬療法
12 骨髄炎の抗菌薬療法
 I . 骨髄炎の経験的治療
  II . 骨髄炎の特効薬治療

第4部 病原菌に最適の抗菌薬

1 グラム陽性球菌に最適の抗菌薬
2 グラム陰性球菌に最適の抗菌薬
3 グラム陽性桿菌に最適の抗菌薬
4 腸内細菌科に最適の抗菌薬
5 ヴィブリオ科に最適の抗菌薬
6 パスツレラ科に最適の抗菌薬
7 好気性グラム陰性桿菌に最適の抗菌薬
8 好気性グラム陰性球桿菌に最適の抗菌薬
9 嫌気性グラム陰性桿菌に最適の抗菌薬
10 スピロヘータ科に最適の抗菌薬
11 クラミジア科に最適の抗菌薬
12 リケッチア科に最適の抗菌薬
13 マイコプラズマ科に最適の抗菌薬

第5部 予防的抗菌薬療法

1 手術後の感染予防
2 感染性心内膜炎の予防
3 バイオテロ時の発症予防
 


カートに入れる 前のページに戻る ホームに戻る