頸動脈狭窄症の診療とステント留置術の実際




著 者
監修:
 永田  泉(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科神経病態制御外科学 教授)
 峰松 一夫(国立循環器病研究センター 副院長)
編集:
 坂井 信幸(神戸市立医療センター中央市民病院脳神経外科部長,脳卒中センター長)
発行年
2011年4月
分 類
脳神経外科学
仕 様
B5判・268頁・143図・写真303点・36表
定 価
(本体 8,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1879-8
特 色 
 1990年代に本格的に始まった頸動脈狭窄症に対するステント留置術は,2010年,新しい頸動脈ステント留置術用の機器の相次ぐ承認,そしてCREST studyにおいて通常リスクの頸動脈狭窄症に対するステント留置術が外科手術と同等の成績であることが示され,その低侵襲性の魅力とともにさらなる展開に注目が集まっている.
 本書では,そのステント留置術の実際に注力し約7割の頁を割いて詳解する.実施基準と教育プログラムからはじまり,術前評価,基本手技,術中管理,モニタリング,合併症とトラブルシューティング,応用技術,術前・術後管理と経過観察までそのすべてを網羅.もちろん,頸動脈狭窄症の治療法の選択,頸動脈プラークの質に対する画像診断,集学的な内科治療も解説している.
 大きな変化を遂げつつある頸動脈狭窄症の診療とステント留置術の現状と今後の展望をしるために是非手にとっていただきたい.

●序   文●

￿￿ 頸動脈狭窄症は冠動脈や下肢動脈疾患と同じ動脈硬化症で、わが国でも生活習慣の変化や高齢化により、罹患患者が確実に増加する傾向にある。高度狭窄を呈すると内科治療を行っていても脳梗塞を引き起こすことが一定の確率で避けられず、大規模試験で優位性が確認された外科手術が積極的に行われてきた。1990年代に本格的に始まったステント留置術は、近年急速に発展したカテーテルインターベンションによる頸動脈狭窄症に対する血行再建術で、基本的には下肢動脈や冠動脈に対する治療と同じ治療法である。その低侵襲性は大きな魅力であり、治療の安全性の向上とともに大きな発展を遂げつつある。

 わが国では、2007年にようやく遠位フィルター型プロテクションデバイスを用いるステント留置術が正式に認められたが、外科手術の高危険群に限定されたうえ、実施基準・施設基準・術者教育プログラムが導入されるなどまだ発展途上の治療法である。2010年には、新しい頸動脈ステント留置術用の機器が相次いで承認され、ステントは2種類、遠位塞栓防止機器は2つの方式で3種類のデバイスの使用が可能になった。また近位側から血行をコントロールする方法も導入されており、治療成績は飛躍的に向上することが期待できる。

 2010年のCREST studyではついに通常リスクの頸動脈狭窄症に対するステント留置術が外科手術と同等の成績であることが示され、ますます頸動脈ステント留置術に注目が集まっている。治療法の選択や治療成績に直結する超音波・MRI・CTなどによる頸動脈プラークの質診断、アスピリンを中心とする抗血栓療法を主体とする内科治療から、厳密な糖尿病管理、スタチンやARB投与などを組み合わせた集学的な内科治療などにも関心を払わねばならない。大きな変化を遂げつつある頸動脈狭窄症の診療とステント留置術の現状と今後の展望をまとめた本書が、診療のお役に立つことを願っている。
 2011年3月吉日
 編集 坂井信幸

■ 主要目次

I . 頸動脈狭窄症

■ 1 疫 学
 1.わが国における無症候性頸動脈狭窄の疫学
 2.わが国の脳梗塞患者における頸動脈狭窄の疫学
 3.海外の研究にみる頸動脈狭窄の疫学
■ 2 病 因
 1.アテローム硬化
 2.脳動脈解離
 3.大動脈解離の進展
 4.高安病
 5.線維筋性異形成(FMD)
 6.放射線による頸動脈狭窄
 7.もやもや病
 8.その他の原因
■ 3 症 候
 1.一過性脳虚血発作(TIA)および軽症脳卒中
 2.頸動脈狭窄症による症候
 3.頸動脈狭窄性病変に特徴的な症候
 4.眼動脈虚血の症候
 5.頭蓋外頸動脈解離に伴う症候
 6.まとめ
■ 4 解剖、画像診断
 1.頸部の外科解剖
 2.大動脈弓の解剖
 3.画像診断…18
■ 5 クリニカルエビデンス、治療適応の判断
 1.症候性頸動脈狭窄症に対するCEAのエビデンス
 2.無症候性頸動脈狭窄症に対するCEAのエビデンス
 3.頸動脈狭窄症に対するCEA合併症(stroke and death)のリスクに対する systematic review
 4.CEA周術期合併症のリスクについて
 5.CASに関するエビデンス
 6.治療適応の判断

II . 頸動脈狭窄症の内科治療

1.頸動脈病変の診断
2.頸動脈病変が虚血発作を生じるメカニズム
3.頸動脈病変を伴う一過性脳虚血発作
4.脳梗塞急性期治療と頸動脈病変
5.全身血管リスクとしての頸動脈病変合併患者の評価
6.無症候性頸動脈病変の治療

III . 頸動脈内膜剥離術(CEA)

1.最低限の術前検討必要項目
2.麻酔・術中全身管理
3.体位と術者の位置
4.手術手技
5.術中モニタリング
6.周術期抗血小板療法
7.手術合併症

IV . 頸動脈ステント留置術(CAS)

■ 1 実施基準と教育プログラム
■ 2 CASに必要な術前評価
1) 頸動脈狭窄症に関連する症候学
 1.頸動脈雑音(carotid bruit)
 2.網膜虚血症状
 3.一過性脳虚血発作(TIA)
 4.脳梗塞と高次脳機能障害
 5.無症候性患者は本当に無症候か—6ヵ月以上経過した症候性病変・無症候性梗塞・ 脳血流低下・狭窄進行例の扱い—
2) 頸動脈狭窄病変(プラーク)の画像診断
 1.動脈硬化の進展と不安定プラークの病理所見
 2.血管造影による狭窄形態診断
 3.超音波検査によるプラーク診断
 4.MRIによるプラーク診断
 5.CTによるプラーク診断
 6.IVUSによるプラーク診断
 7.血管内視鏡によるプラーク診断
 8.PETによるプラーク診断
 9.その他のプラーク診断
 10.プラーク診断の問題点と将来
3) CASに必要な脳神経・血管の画像診断
 1.頸部MRA・頭部MRAとそのpit fal
 2.アクセスルートの評価—術前MD-CTAの重要性—
 3.頭部CTとMRI—虚血パターンによる発症機序の推定—
 4.脳血流検査
 5.Digital subtraction angiography(DSA)と狭窄形態の評価
 6.術後拡散強調画像(DWI)
4)全身評価(心臓、大動脈、末梢、腎臓)
 1.心疾患の術前評価:冠動脈疾患(狭心症、不安定狭心症、心筋梗塞)
 2.心疾患の術前評価:大動脈弁狭窄
 3.大動脈、末梢血管、腎動脈の評価
■ 3 CASの基本手技、術中管理、モニタリング
1.穿刺からガイディングシステム留置まで
2.計測とデバイス選択
3.フィルター展開
4.前拡張、ステント留置、後拡張
5.フィルター回収
6.血管内超音波(IVUS)
7.経頭蓋超音波ドプラ法(TCD)
8.止血
9.薬物療法
10.まとめ
■ 4 CAS合併症、トラブルシューティング、応用技術
1) 塞栓症
 1.Protection deviceの選択
 2.術中塞栓性合併症
 3.遅発性虚血性合併症
 4.まとめ
2) 過灌流症候群(HPS)
 1.概念
 2.頻度
 3.Powers hemodynamic stage
 4.HPSのハイリスク群
 5.HPS評価に用いられる検査
 6.頸動脈ステント術後HPSの特徴
 7.HPSの治療
3) 徐脈、低血圧
 1.頸動脈反射
 2.徐脈(bradycardia)
 3.低血圧(hypotension)
4) 穿刺部合併症、コレステリン塞栓症
 1.穿刺に伴う合併症
 2.コレステリン塞栓症
5) 治療困難例への対応
 1.ガイディングカテーテル留置困難例への対応
 2.プラークおよび病変周囲のリスクとその対応
 3.塞栓リスクの高いプラーク(vulnerable plaque,high volume plaque)
 4.病変部周囲の血管構造に伴うリスク
 5.神経学的に不安定要因をもつ症例
 6.内科疾患の合併による治療困難の評価とその対応
6) 新しく導入されたCAS関連医療機器
■ 5 術前・術後管理と経過観察
1.術前管理
2.術後管理
3.術後経過観察 


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