よくわかる リンパ浮腫のすべて




著 者
編 集:
光嶋  勲(東京大学大学院医学系研究科形成外科学教室 教授)
発行年
2011年4月
分 類
癌・腫瘍一般 形成外科学
仕 様
B5判・214頁・82図・写真192点・17表
定 価
(本体 9,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1880-4
特 色 
 本書は,リンパ浮腫におけるリンパ系の仕組みとリンパ管の生理,リンパ浮腫の分類,症状,検査・診断,保存的療法,そして最新の外科的治療から予防までをわかりやすく簡潔にまとめた,リンパ浮腫治療の新たなバイブルを目指した書である.
 リンパ浮腫の治療では圧迫療法を中心とした理学療法が行われてきたが,基礎分野でのリンパ管の機能に関する研究やリンパ系の解剖,リンパ管の新生や再生など分子細胞生物学の研究も急速に進み,リンパ浮腫治療において確立された治療法とはなっていなかった外科治療に,理学療法と肩を並べる道を開いた.
 1990年以後,臨床の分野で超微小血管吻合手技(スーパーマイクロサージャリー)を用いた低侵襲のリンパ管細静脈吻合術(LVA)が開発され,この術式による著効例が報告された.血管柄付きリンパ管・リンパ節移植など新たな術式も急速に開発されつつある.そして,現在ではICG蛍光リンパ管造影法の導入により,stage0の浮腫の診断や浮腫予防までもが可能となってきた.
 本書では,細胞レベルまで踏み込んでリンパ管について詳細に解説しており,これは海外を含めても類をみない.リンパ浮腫における基礎と臨床,そして理学療法におけるそれぞれの専門分野の集大成となっている.

●序   文●

￿￿ 全国のリンパ浮腫患者は、2009年現在で10万人とも15万人ともいわれている。海外も含めると、膨大な患者が理学療法さえも受けられず苦悩している。
 リンパ浮腫の治療は、圧迫療法を中心とした理学療法が行われ外科治療は否定され続けてきた。連日のスリーブ・ストッキングの着用は浮腫の増悪予防には必須であるが、患者たちにとっては身体的にも精神的にも大きな負担である。このため患者は浮腫と同時に理学療法からの解放を外科療法に求め続けてきたが、外科医はその期待に100%応ずることはできなかった。
 近年、基礎分野でのリンパ管の機能に関する研究やリンパ系の解剖、リンパ管の新生や再生など分子細胞生物学の研究が急速に進んできた。これらの基礎を基盤として、本邦において1990年以後、臨床の分野で超微小血管吻合手技(スーパーマイクロサージャリー)を用いた低侵襲のリンパ管細静脈吻合術(LVA)が開発された。その後、この術式による著効例が報告され、血管柄付きリンパ管・リンパ節移植など新たな術式も急速に開発されつつある。さらに、近年、ICG蛍光リンパ管造影法が導入され、stage0の浮腫の診断や浮腫予防までもが可能となってきた。これらの術式・診断法は本邦から発信され、ライブ手術を供覧することで世界各国に広まりつつある。舟岡(京都大学)や山田(名古屋大学)など基礎と臨床の両分野における本邦の先駆者たちの激動の時代下での独自の努力がその礎にあったことを忘れてはならない。
 本書はリンパ系の仕組みとリンパ管の生理、リンパ浮腫の分類、症状、検査・診断、保存的療法、そして最新の外科的治療から予防までをわかりやすく簡潔にまとめたつもりである。中でも細胞レベルまで踏み込んでリンパ管について詳細に解説した書籍は海外を含めて類をみないといっていいだろう。
 リンパ浮腫の治療に携わる基礎と臨床、そして理学療法のそれぞれの専門分野の集大成がここに完成したことは大きな喜びである。本書は、今後この3分野が手を取り合ってリンパ浮腫という難治疾患に対する新たな治療法を開発する礎になるであろう。
 リンパ浮腫治療にかかわる世界中の多くの専門家にとって、本書が新たなバイブルとなることを願っている。
 最後になったが、執筆者各位には多忙な日常業務の中で執筆の労をお執り頂いたことに心から感謝申し上げたい。また、本書の完成は永井書店の山本美恵子さんの情熱によるものである。忙殺される編者を絶えず激励して頂いた彼女の貢献に深く感謝したい。

 平成23年3月吉日—第2回ヨーロッパ・リンパ浮腫ライブ手術講習会(2011.2.29、バルセロナ、サンポウ病院)の帰路 機内にて—
 編 者 光嶋 勲

■ 主要目次

1.リンパ研究の歩みと歴史
 I .リンパ研究の歴史
 II .本邦におけるリンパ研究の歴史
 III .最近のリンパ管観察法

2.リンパ系の仕組み
1 骨盤のリンパ系と胸管
 I .外陰部のリンパ系と鼠径リンパ節
 II .骨盤腔のリンパ系
 III .腸骨リンパ節群
 IV .骨盤臓器のリンパ系
 V .大動脈傍リンパ節(腰リンパ節)
 VI .胸 管
2 マクロ所見(四肢リンパ解剖)
 I .四肢リンパ管の発生
 II .リンパ管の名称と構造
 III .所属リンパ節と介在リンパ節
 IV .上肢リンパ管の走行
 V .下肢リンパ管の走行
 VI .リンパ節郭清術後の変化
3 リンパ循環系の微細構造
 I .毛細リンパ管
 II .集合リンパ管
 III .胸管と右リンパ本幹
 IV .リンパ節
 V .リンパ浮腫

3.リンパ管の生理—リンパ浮腫との関連から—
 I .リンパ管の構造と機能
 II .集合リンパ管の自発性収縮と能動的リンパ輸送機構
 III .マッサージによるリンパ産生能の増強作用とリンパ液蛋白濃度の変化について

4.リンパ浮腫の病態変化—リンパ浮腫における平滑筋細胞の形質変換の役割について
 I .背 景
 II .リンパ浮腫リンパ平滑筋細胞の病態変化
 III .まとめ

5.分 類
1 特発性リンパ浮腫と続発性リンパ浮腫
 I .特発性リンパ浮腫
 II .続発性リンパ浮腫
 III .静脈性リンパ浮腫
2 統計でみる特発性リンパ浮腫と続発性リンパ浮腫
 I .特発性リンパ浮腫
 II .続発性リンパ浮腫
● Important Reference【遺伝子変異マウスの先天性リンパ浮腫】
 1.リンパ管の発生—発生過程におけるリンパ管新正
 2.リンパ管形成を制御する遺伝子群
 3.マウスで認められる先天性リンパ浮腫
 4.ヒトの先天性リンパ浮腫との関連性
3 蛋白漏出性胃腸症
 I .蛋白漏出の機序
 II .症 状
 III .診 断
 IV .治 療

6.症 状
 I .患肢のボリューム増大
 II .リンパ浮腫の皮膚変化
 III .リンパ浮腫の鑑別診断
 IV .蜂窩織炎、急性皮膚炎
 V .リンパ管肉腫(Stewart-Treves症候群)
 VI .顔面リンパ浮腫
 VII .陰部リンパ浮腫
 VIII .その他

7.検査法・診断
1 リンパシンチによるリンパ浮腫の評価
 I .方 法
 II .リンパ浮腫の評価
 III .手術適応について
 IV .治療効果の評価
 V .その他のリンパ機能評価法との比較
2 ICG蛍光リンパ管造影法によるリンパ浮腫評価
 I .ICG蛍光リンパ管造影の検査方法
 II .ICG蛍光リンパ管造影所見
 III .ICG蛍光リンパ管造影による重症度評価
 IV .ICG蛍光リンパ管造影によるLVA術前評価
3 ICG蛍光リンパ管造影法によるリンパ圧測定法
 I .ICG蛍光リンパ管造影法によるリンパ圧測定
 II .ICG蛍光リンパ管造影法によるリンパ圧測定の今後

8.保存的治療
1 概 論
2 複合的理学療法
 a. リンパドレナージ
 b. 弾性スリーブ・ストッキングの着用または弾性包帯
 c. 運動療法
3 患者指導
 I .浮腫の予防
 II .炎症予防
4 感染症を防ぐためのスキンケア
 I .スキンケアの目的
 II .リンパ浮腫患者の感染症(蜂窩織炎)の要因
 III .リンパ浮腫患者の感染症を防ぐためのスキンケア

9.外科的治療
1 リンパ浮腫治療における形成外科の役割
 I .根治的治療を目指すリンパ浮腫の専門家の不在
 II .新しい外科的治療法の開発
 III .総合的チーム・アプローチの推進
2 外科的治療法の実際
 I .リンパ管新生法(絹糸埋没法)
 II .ドレナージ術
 III .皮膚切除・植皮術
 IV .脂肪吸引法
 V .リンパ系再建術
 VI .リンパ管吻合術
3 症例提示
 a. リンパ管細静脈吻合術(LVA)(顕微鏡下)
 b. 血管柄付きリンパ管-リンパ節移植
 c. IVaS法
 d. 両端針付きナイロン縫合糸を用いたUntied Stay Suture法によるリンパ管細静脈吻合術
 e. リンパ管静脈側端吻合術
 f. 遊離血管柄付き浅鼠径リンパ節移植
 g. その他

10.早期診断・予防
 I .早期診断
 II .予 防

11.世界におけるリンパ浮腫外科治療の現況
 I .リンパ浮腫外科治療の世界のパイオニアたち


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