新プレホスピタル外傷学




著 者
編集:松本  尚(日本医科大学千葉北総病院救命救急センター 准教授)
発行年
2011年6月
分 類
救命・救急医学
仕 様
B5判・410頁・110図・写真471点・51表
定 価
(本体 6,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1883-5
特 色 
 救急医と救急救命士の協働で作成され,JPTECの内容を詳細に補完することに加えて,救急現場目線で外傷の知識を詳述し好評を博した第2版より,さらに将来を見据えたトピックスを加え,救急隊員向け病院前外傷診療の最高レベルのテキストとして位置づけるとともに,救急医,研修医にも広く役立つように編集されたプレホスピタル外傷学の決定版.
 わが国に救急救命士制度ができて20年.救急隊員,医師のかかわり方,考え方は制度の発足当時から変化してきている.「防ぎ得た外傷死」をなくすためには,外傷の取り扱いに,「病院前医療」(=広義のプレホスピタルケア,これからのプレホスピタルケア)という考え方を積極的に取り入れ,将来のデザインを早期に構築することが重要である.
 本書は,近い将来のプレホスピタルケアのデザインを描くためになくてはならない必携書である.


●序   文●

 「プレホスピタル外傷学」改訂第2版の序文には、「病院前救護」という用語を廃し、「病院前医療」という言葉を用いた旨が記されています。今では、救急救命士をはじめとする救急隊員がメディカルコントロール下に「医療」を提供するという考え方や、医師が現場に出動して「医療」を展開する必要性は、多くの救急医療関係者が共有するようになりました。このことは、救急医療体制の大きなフレームの中で、プレホスピタルケアをどのような位置づけとして捉えるかを考えるときに重要な概念となるものです。
 「プレホスピタル外傷学」は、このような考え方がまだなかった頃、それを先取りするように救急医と救急救命士の協働によって作成されました。それ以後、JPTECTMが日本救急医学会公認の病院前外傷初期診療の標準化プログラムとして認知され、JPTEC協議会が全国的な普及活動を進めるまでになり、さらには、平成22年にはJPTECプロバイダーコースのためのテキストも一新され、外傷に対する現場活動の改革も黎明期から発展期へと移り変わっています。
 わが国に救急救命士制度ができて20年が経過しましたが、傷病者がショック状態であれ、心肺停止状態であれ、病因が内科的疾患であれ、外傷であれ、これらに対して救急隊員がどこまでかかわり、医師がどこからかかわるか、制度の発足当時と比べるとその考え方は変化してきています。そして、現在は将来のデザインを描き切れずにいる混乱期にあるのではないかと推察します。とりわけ、重症外傷は受傷早期から医師の介入が必要となるため、「病院前医療」(=広義のプレホスピタルケア、これからのプレホスピタルケア)という考え方を積極的に取り入れなければ、「防ぎ得た外傷死」をなくすことなど叶わないでしょう。そのため、プレホスピタルケアにおいてこの先、外傷をどのように取り扱うかを早くデザインすることが求められていると思います。
 このような背景のもと、この度「プレホスピタル外傷学」を全面改訂する企画が持ち上がり、小職が編集を担当させて頂くことになりました。これまでの本書は、初版はJPTEC成立以前のテキストとして、改訂第2版はJPTECに準拠した書籍としてそれぞれ位置づけられていましたが、そのいずれにおいてもJPTECの内容を詳細に補完することに加えて、救急現場目線で外傷の知識を詳述しようとするものでした。今回の改訂では、本書のこれまでの基本路線を踏襲しつつ、新しい知見と不足していた部分を加え、さらには将来を見据えたトピックについても盛り込むこととしました。
 外傷診療の出発点は現場ですから、あくまでも「プレホスピタル」から外傷を捉えることは初版以来変わることはありません。とはいえ、外傷について何かを語ろうとすれば、それは「プレホスピタル」だけに限って記述できるものではなく、病院内の治療、さらには研究や予防までを含めて考察されなければなりません。このような考えから、本書を救急隊員向け病院前外傷診療の最高レベルのテキストとして位置づけるとともに、救急医、研修医にも広く役立つように編集を心がけました。
 本書が、わが国の外傷診療のレベルアップに貢献することと、近い将来のプレホスピタルケアのデザインを描くための一助となることを期待しています。
 最後に、改訂にあたり、監修頂きました石原晋先生、これまでに引き続き編集に多大な御尽力を賜わりました永井書店に深く感謝致します。
 平成23年5月吉日
 編者 松本 尚

■ 主要目次


第1部 外傷システムと現場診療・研究
1 外傷システム
 I.Golden Hour
 II.ドクターヘリ/ドクターカー
 III.外傷センター
2 病院前救急診療
 I.医師現場出動の意義
 II.外傷システムと病院前救急診療
 III.ディスパッチ
 IV.救急救命士の役割
3 外傷を取り巻く研究
 I.交通事故分析
 II.新しい交通/車両制御システム

第2部 外傷に対するプレホスピタルケア
1 基本的概念(ロード&ゴー)
 I.重要なキーワード
 II.病院前外傷救護のフロー
 III.ロード&ゴーの判断に関して
 IV.ロード&ゴーの傷病者への対応
 V.観察・処置の手順に関して
2 安全管理
 I.標準予防策(スタンダードプレコーション)
 II.感染経路と感染対策
 III.現場における危険因子
 IV.安全の確保
3 状況評価
 I.準備
 II.情報の把握と処理
 III.感染防御
 IV.携行資器材
 V.安全確認
 VI.傷病者数の把握
 VI I.応援要請の要否
 VIII.受傷機転の把握
4 初期評価
 I.全体的印象
 II.頸椎保護
 III.気道の評価
 IV.呼吸の評価と病態
 V.循環の評価と病態
 VI.意識レベルの確認(JCSの桁数)
5 全身観察(重点観察を含む)
 I.頭部
 II.顔面・頸部
 III.胸部
 IV.腹部
 V.骨盤
 VI.四肢・背面
6 詳細観察と継続観察
 I.詳細観察の目的と実際
 II.継続観察の目的と実際
7 車内収容後の活動
 I.病院選定
 II.連絡
 III.保温と体温管理
 IV.モニタリング
 V.傷病者の情報の収集

第3部 手 技
1 車両からの救出
 I.救出にあたっての留意点
 II.一般的な救出方法の実際
 III.特殊な救出方法
2 ヘルメット離脱
 I.ヘルメットと頸椎・頸髄損傷
 II.ヘルメットの種類
 III.ヘルメットの構造
 IV.ヘルメット装着時と非装着時における頸椎の状態
 V.ヘルメット離脱方法の実際
 VI.ヘルメット離脱補助具
 VI I.自転車用ヘルメット
3 気道・呼吸管理
 I.呼吸生理と外傷における病態
 II.急性呼吸不全の病態と主な原因
 III.プレホスピタルにおける対応
4 脊椎保護
 I.脊椎保護の意義
 II.ニュートラル位
 III.頸椎カラーの装着
 IV.ログロール
 V.全脊柱固定
5 胸部外傷に対する処置
 I.フレイルチェストの処置
 II.開放性気胸の処置
6 穿通性外傷に対する処置
 I.穿通異物の固定
 II.脱出腸管の処置
7 骨折に対する処置
 I.骨盤骨折の固定
 II.四肢骨折の固定
8 開放創に対する処置
 I.止血
 II.デグロービング損傷
 III.切断指
9 心停止前の輸液
 I.海外における議論
 II.わが国の現状
 III.実証研究と将来

第4部 各 論
1 頭部外傷
 I.重症度の評価
 II.頭部外傷の分類
 III.受傷時傷病者を医療機関に搬送するかどうかの判断
 IV.頭部外傷の病院前救護と治療
 V.頭部外傷後遺症
 VI.頭部外傷の治り方
2 脊椎・脊髄損傷
 I.脊髄損傷の疫学
 II.病因と症状
 III.神経学的所見の取り方
 IV.現場での注意事項
 V.治療
3 顔面・頸部外傷
 I.顔面外傷
 II.頸部外傷
4 胸部外傷
 I.受傷機転と病態
 II.緊急性と致命的胸部損傷
 III.現場での注意事項
 IV.治療
5 腹部外傷
 I.受傷機転と病態
 II.緊急度と腹部外傷の評価
 III.現場での注意事項
 IV.治療
6 骨盤外傷
 I.骨盤部の解剖
 II.骨盤骨折の分類
 III.疫学
 IV.観察のポイント
 V.処置
 VI.病院選定
 VI I.病院搬入後の治療
7 四肢外傷
 I.骨折
 II.デグロービング損傷
 III.コンパートメント症候群
 IV.脱臼
8 穿通性外傷
 I.穿通性外傷の種類と特徴
 II.病院前医療における穿通性外傷の特殊性
 III.損傷部位別の病態評価と処置
9 小児の外傷
 I.生理学的特徴
 II.解剖学的特徴
 III.観察と処置
10 高齢者・妊産婦の外傷
 I.高齢者に対する注意点と処置
 II.妊婦に対する注意点と処置
11 低体温
 I.外傷と低体温の疫学
 II.低体温の病態
 III.治療
12 熱 傷
 I.熱傷の病態
 II.熱傷による循環器系の変化
 III.熱傷による呼吸器系の変化
 IV.一酸化炭素中毒
 V.胸郭熱傷
 VI.重症熱傷の重症度・緊急度判断
 VI I.病院内での熱傷治療

第5部 多数傷病者事故
1 多数傷病者事故対応のポイントと事例検討
 I.多数傷病者事故対応のポイント
 II.事例検討
2 DMATによる活動とエマルゴトレーニング
 I.DMATによる活動
 II.エマルゴトレーニング

第6部 法的・社会的諸問題
I.救急業務の高度化に伴う病院前救護体制に関する法令の整備状況
II.救急活動記録票のもつ訴訟上の意味を自覚する
III.メディカルコントロール体制の法的意義
IV.搬送拒否事案
V.傷病者側から応急処置の実施を拒否され、搬送のみを実施する事案
VI.無用な紛争を防止する
VI I.紛争・訴訟社会を意識した5つの約束を、救急隊員は忘れず、消防本部はこれを徹底


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