最新の癌免疫細胞療法


−リンパ球療法から樹状細胞癌ワクチンまで−


著 者
著:
秋山真一郎(医療法人社団博心厚生会九段クリニック院長)
阿部 博幸(医療法人社団博心厚生会九段クリニック理事長)
発行年
2011年8月
分 類
癌・腫瘍一般
仕 様
B5判・140頁・34図・51表
定 価
(本体 3,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1888-0
特 色 
 著者らの九段クリニックは、Isolater による Grade A の CPC(cell processing center)を日本で最初に導入した施設であり,なおかつ日本屈指の樹状細胞癌ワクチンの症例数をもつパイオニアである.
 本書は,爆発的進歩を遂げた免疫学,とくに最新の癌特異的免疫細胞療法をわかりやすく解説し,最先端治療である樹状細胞癌ワクチンの各種癌における実際の方法,成績などの知見と,九段クリニックで実施された症例実績をあわせ,学術的・臨床的に有用な情報をコンパクトにまとめた.
 著者の阿部博幸博士が提唱する樹状細胞癌ワクチンと NK 細胞療法によるハイブリッド療法は,癌に対する理想的な標的治療法であるとともに,副作用が少なく,身体的負担が格段に少ない,今最も注目される治療法である.
 がんの免疫細胞療法に興味のある方,これから実際に免疫療法に取り組みたいと考えている若い研究者に,是非一読していただきたい良書である.

● 序にかえて ●

￿ 最近の樹状細胞ワクチンの進展を象徴する DC2010:Forum on Vaccine Science が、2010年9月26日から5日間にわたって風光明媚な南スイスのルガノ市で開催された。
 樹状細胞の基礎から臨床までに及ぶ最新の知見が、総会12セッション、フォーラム6題、ワークショップ2題、ポスターセッションは著者らが発表した Tumors and Immunotherapy のセッションを含め6セッション467題と、壮大な学術集会であった。
 とりわけ、強い印象が脳裏に残っているのが、International Society for Dendritic Cell and Vaccine Science の創設者である Ralph M. Steinman 教授(ロックフェラー大学、米国ニューヨーク市)の Closing Lecture である.彼がレクチャーの中で力説していたのは,
 「人間または動物に対するワクチンに関する研究はまだ少ない中でも、私たちはモノクロナール抗体、微生物のゲノム、特定のタンパク、抗 CD3抗体を用いるようなポリクロナールなアプローチなど、素晴らしい手段を手にしている。
 免疫をもたらすワクチンについてはかなりの進歩がみられるが、さらに抗原特異的な方法による多様な新しいワクチンの開発に力をそそぎ、興奮するようなサイエンスの喜びを体験しよう。
 病気の予防と治療のために、AIDS や他の病気に対して樹状細胞に蛋白をパルスしたワクチンの可能性に光も見えてきました。これらを実現するためには、抗原を取り込むための樹状細胞レセプター、培養工程、樹状細胞の成熟刺激などの研究なども含まれる。ワクチンの発見と創造へと前へ進みましょう」
と力強いエールを送っていた。
 「今日まで,樹状細胞(DC)を用いたワクチンの研究には、次のようなものがあげられる。
 1.Melief and van der Burg による HPV 感染に対する免疫治療
 2.Urdahl による前立腺癌に対する Dendreon ワクチン
 3.De Vries によるプラズマ細胞様DCワクチン
 4.Erdmann によるがん抗原性ペプチドをパルスした DC
 5.Bandereau による体内,体外における標的 DC
 6.Seder による TLR7を標的とするタンパクワクチン
 7.Von Boehmer による DC を介する Treg ワクチン」

 ここでは,DC ワクチンの開発の多様性をみることができる,そして,また Steinman 教授は次のように続けた。
 「T細胞の機能に基づくワクチンは、AIDS やマラリヤ、結核を含む感染症、がん、自己免疫疾患や慢性の炎症、アレルギーや喘息など多様な疾患に必要とされている。B細胞からのモノクローム抗体は、関節炎に対する抗 TNF 抗体のようにすでに主流となっている。
 一方,ポリクロナール抗体が、上記の疾病に対してT細胞を適切に免疫するワクチンが発見することができうるのだろうか。今こそ、ワクチンの科学を広く展開する時である。
 前に述べたように、樹状細胞をターゲットにしたタンパクをパルスしたワクチンのような新しいチャレンジが必要である。タンパク(および長鎖ペプチド)ワクチンは媒体の免疫を引き出すこともなく,抗原の競合も起こらない。同時にそれらは製造するのに安価であり、容易でもある。しかし、それらは免疫性が弱いのである。
 現在のところ、ワクチンはがん研究の小さな部分であるが、ワクチンによる治療はがんに対して論理的なアプローチである。それは免疫に対峙するユニークな特徴による。
 すなわち、
 1.複数の免疫機能(B、NK、異なるタイプのT細胞)
 2.多くのがん細胞の標的(抗原)を同時に攻撃する。
 3.この免疫は特異的で、無害性であり、しかも永続性があるからだ。
 がんに対して,これに匹敵するアプローチはない。」
とスピーチを結んでいる。
 DC2010:Forum on Vaccine Science の膨大なデータを前にして、筆者は十分に理解し得ない部分もあったが、本書で述べている DC ワクチンと NK 細胞療法の併用を、すなわちハイブリッド免疫細胞療法ががんに対する免疫療法の進むべき方向であることがくしくも示されたことを思うと、大いに勇気づけられるものと感じている。
 本書が少しでも多くの臨床の場で働く人々の眼にとまり、樹状細胞ワクチンががん患者の治療に貢献するための選択肢の一になれば幸いである。

 阿部 博幸(南スイス/ルガノにて)



● 推薦のことば ●

 近代の免疫学の進歩は、爆発的と言っても過言ではない進歩と発展を遂げた。1973年には RM Steinman の樹状細胞の報告が、1974年 R Zinkernagel、PC Doherty によるキラーT細胞認識における MHC 拘束性の発見、1978年には RM Steinman による樹状細胞のT細胞活性能をもつことを報告、その後、1991年に T Boon らによるヒトT細胞が認識しうる癌抗原 MAGE‐1 の発見は癌特異的免疫細胞療法の幕開けとなった。1996年には本邦の赤川清子博士により単核球から樹状細胞を誘導する報告がなされ、また時を同じくして次々とT細胞が認識できる癌抗原が同定されている。本編の I.基礎編では以上の内容がわかりやすく具体的に記述されており、II.臨床編では急速に進歩してやまぬ免疫学の最先端治療である樹状細胞癌ワクチンの各種癌における実際の方法、成績やそれぞれの疾患のトピックも含まれており、本書は本邦で臨床の第一線で活躍する癌の臨床医にとって有用な情報がコンパクトにまとめられている。
 著書らの九段クリニックは、Isolater による Grade A の CPC(cell processing center)を日本で最初に導入した施設であり、なおかつ日本屈指の樹状細胞癌ワクチンの症例数をもつ。安全性の基準とコストから CPC を設置、維持できる施設は極めて限られており、パイオニアにエールを送りたい。
 阿部博幸博士の提唱する樹状細胞癌ワクチンと NK 細胞療法によるハイブリッド療法は、理想的に cross‐talk を生かせるとともに、MHC Class I 発現量に無関係に癌を攻撃できる強力な免疫療法である一方、副作用はアジュバントによる発熱程度で、免疫力を低下させる化学療法とは患者の身体的負担は格段に異なっている。そのような施設からの治療成績の発表は非常に有意義である。
 今後は、どのような免疫のパラメーターがワクチンの効果を左右するか、また化学療法との併用はどのくらい可能なのか、検討が必要であるのはもちろんであるが、症例数の蓄積とともに保険診療への道が開ければ癌治療の選択肢は広がり、頭打ちともいわれる抗がん剤の開発よりワクチン開発のラッシュが始まるであろうと期待する。
 著者の労に深い謝辞を表するとともに、本書が多くの研究者、臨床家に読まれ、現代免疫学の一里塚となり、多くの議論への参加を期待してやまない。

順天堂大学医学部免疫学講座
 教授 奥村  康

■ 主要目次

はじめに

I.基 礎 編
 1.免疫は癌を排除できるか
 2.自然−先天免疫 NK,NKT 細胞の特性,安全性
 3.樹状細胞とは何か−発見の歴史
 4.癌抗原の同定と抗原提示
 5.クロスプレゼンテーションとは
 6.癌ワクチンの歴史

II .臨 床 編
 1.樹状細胞療法のための樹状細胞の作り方,培養の流れ
 2.細胞培養のためのクリーンルームの基準
 3.樹状細胞癌ワクチン適応症例選択基準
 4.HLA 検査と人工抗原選択
 5.樹状細胞癌ワクチンの投与法
 6.樹状細胞癌ワクチンとの併用療法
 7.抗癌剤との併用の際の注意事項
 8.治療効果判定基準と有害事象判定規準
 9.癌遺伝子検査による新しい試み
 10.今日までの免疫細胞療法の成果
 11.臓器別樹状細胞癌ワクチンの成績
  11‐ 1 食 道 癌
  11‐ 2 胃   癌
  11‐ 3 大 腸 癌
  11‐ 4 肝 臓 癌
  11‐ 5 膵 臓 癌
  11‐ 6 肺   癌
  11‐ 7 乳   癌
  11‐ 8 子 宮 癌
  11‐ 9 悪性リンパ腫
  11‐10 前立腺癌
  11‐11 甲状腺癌
  11‐12 悪性黒色腫
 12.ペプチドワクチンとの相違
 13.今後の展望

 あとがき
 用語解説
 索   引


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