医学生・コメディカルのための外科侵襲学



生体反応のカラクリとタネ明かし


著 者
著:三村 芳和(松本大学大学院健康科学研究科 教授・前 東京大学病院 准教授)
発行年
2011年11月
分 類
外科学一般/看護教育・看護研究
仕 様
B5判・138頁・105図・15表
定 価
(本体 4,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1891-0
特 色 
 前著 ― 外科侵襲学ことはじめ ― は,ケガの一つといえる手術という侵襲と,手術によって損傷されたカラダの反応システムを,第I部(通読編)では外科侵襲領域の全体像について概説,そして第II部(具体編)では生体反応の個々のテーマにそって詳しく解説し,最新の高度な内容が,欄外のインデックスと親しみやすい見出しによって,理解しやすく述べられており,好評を博した.
 本書は,医学生から研修医,看護師や薬剤師,そして栄養士の方々など大勢の人を読者の対象とし,前著(通読編)に,著者が手を加え,理解しやすいように図を多く取り入れ,ヒトのカラダの反応態様をコンパクトにまとめた入門書である.

■ ￿はじめに ■

 満身創痍。グッと堪えて立ち往生する弁慶。腕に止まる蚊のカユミにうずく赤子。どちらもカラダは全知全能でキズの修復にとりかかる。キズの情報を脳が集め、生体反応を駆使する。電光石火の神経、隈なく浸透するホルモン、機敏で呑気な免疫。それらを縦横に総動員し、心、腎、肝、肺の機能を調節し、体温と血流と水分出納を制御しながら内外の微生物にも対抗する。そしてキズを元に戻す。それも細胞どうしの調和をはかりながら全一性をもって。この完璧の域に達している(と思われる)システム化された生体反応は工芸のように美しい。本書はその秩序あるカラダのしくみについて紹介する。まだ知り得ない無尽蔵なカラダのカラクリ。その知見と知識は今後も増え続ける。しかし侵襲に対峙する生体の目指すゴールは本書で読み取って貰えると思う。
 前著 — 外科侵襲学ことはじめ — を1年半前に上梓した。生体反応のカラクリを説いた大著だった。紐解く機会がない多くの人たちにもっと手術後の基本的なカラダの反応について知って欲しいと思った(願った)。それは、子供が自分の大切な門外不出と言いたいくらいの宝物を、実は勿体ぶりながら誇らしく仲間に見て欲しいとのキモチに通じている。その意図でこの本が生まれた。「外科侵襲学ことはじめ」の通読編に手を加えたのだ。医学生から研修医、看護師や薬剤師、そして栄養士の方々など大勢の人を読者の対象とした。理解し易いように図を多く取り入れた。韋編三絶 — ボロボロになるまで読んでいただければ身に余る光栄である。
 一将功なりて万骨枯る
 いまあるヒトのカラダの反応態様は、星の数ほど多くの生物の遺物にほかならない。生物の歴史35億年という気の遠くなる長久の時間をかけて、その機構はヒトに継承されてきた。その魔法の玉手箱によってヒトはケガという侵襲をときにイナシ、ときに手なずけ乗り越えてきた。<生命ある集団は共通システムに集約されていく>。著者は生体反応をこんな風に位置付ける。読者をして興味津々、フツフツと関心が湧くなら前著(外科侵襲学ことはじめ)をパラパラとでもめくって参考にしてくれたらと願っている。
 平成23年10月吉日

■ 主要目次

1 手術後のカラダの反応

生身のカラダ
2人のガードマン
脳は察知する
情動の変化
遠くへ波及する
虚血・再灌流傷害
血管内皮が傷害される
組織は低酸素となる
はやし立てる腸管
腸管が動かなくなる
腸管筋層で炎があがる
遠く離れた臓器に傷害
必殺技
自然免疫のトピックス
粘膜の共同戦線
腸内共生菌の貢献
天然の抗生物質
低酸素にめげない
転写因子HIF-1α
たくさん食べて
まとめ

2 カラダの知恵

1 火の手があがる
 外科侵襲とは
 「だれ」がケガ(侵襲)を感知するか
 「受傷」信号は局所から脳へかけめぐる
 細胞内信号伝達
 炎症は秩序よく美しく
 道を整備する
 全身で支援する
2 脳はちゃんと知っている
 ちがいが分かる
 ストレスに対する神経内分泌反応
 心とカラダをつなぐ視床下部
 脳内でIL-1が増える
 副交感神経経路
 神経 - 内分泌 - 免疫の連携
 脳が統合する侵襲反応
3 白血球が動く
 細胞が歩く
 細胞骨格
 道しるべ
 足場を置く
 インテグリン
 白血球が遊ぶ
 白血球が動く意義
 細胞どうしが会話する
4 血液が固まる
 出血部位で炎症がおきる
 血小板が集まる
 凝固反応
 凝固と炎症のキーマン
 トロンビン受容体
 もうひとつのトロンビン受容体
 血栓を溶かす
 凝固と炎症とは裏腹
 アスピリン物語
 深部静脈血栓症
5 七つ道具
 抗菌ペプチド
 パターンを知る
 NADPHオキシダーゼ
 TLR
 好中球
 補 体
 食作用
 IgA
6 熱の出方がナゼちがう
 免疫応答遺伝子のちがい
 「わたし」のマーク — MHC分子
 MHC分子が読みとる抗原のちがい
 MHC分子のちがい
 ドンピシャリといかない抗体
 多様性の創出
7 腸管を見直す
 腸管の光と陰
 トピックス
 腸内細菌はナゼ必要か
 免疫細胞の宝庫
 ホーミング
 パイエル板
 共同戦線
 黒衣 — 腸上皮細胞
 内因性エンドトキシン血症
8 すべては蛋白質
 情報伝達と蛋白質
 遺伝子と蛋白質のおかしな関係
 少ない遺伝子で頑張る
 蛋白質の構造と機能
 つくっては壊す
 シグナルを伝える
9 糖が燃える
 水素を抜く
 エネルギーができる詳しい過程
 ATP
 寄生者としてのミトコンドリア
 活性酸素とつき合う
 外科のエネルギー論
10 もっと酸素を
 手術で低酸素症となる
 低酸素を感知する
 転写因子HIF-1
 突破口
 炎症に関与するHIF-1
 電子伝達系でできる活性酸素
 虚血・再灌流
 慢性肉芽腫症
 抗酸化システム
 活性酸素の貢献
11 周りに迷惑をかけずにお先にご免
 アポトーシス
 安全策
 シグナルの要点
 ミトコンドリア
 わたしを食べて
12 全身に拡がる
 オスラーの言
 言葉の混乱
 SIRS
 サイトカイン嵐
 バランスをとる


カートに入れる 前のページに戻る ホームに戻る