透析用語百科事典


著 者
北岡 建樹(望星病院 院長) 著
発行年
2012年6月
分 類
腎 臓/事典・辞典・語学
仕 様
A5判・586頁
定 価
(本体 8,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1899-6
特 色 
 著者は40年以上透析医療とともに歩んできた.昨今の一般人への腎臓病対策の認知,また国際化の影響により共通の用語の使用が求められてきたことを含め,自身の腎臓学会と透析医学会での経験から,用語の概念が異なることによって情報伝達に支障が起こることを危惧し,用語の概念を解説する書物の必要性を感じていた.そこで,自分が専門として経験したことをまとめる意味からも,日本透析医学会の用語集を基本に,透析医療,腎臓医療の礎となるべく本書を上梓した.著者渾身の事典である.
 基本語のほか,理解を深める意味から興味のある内容に関する用語を加え,また疑問の用語を調べるだけでなく,思いついた部分を気楽に読めるように図表も多く盛り込んだ.ダイアライザなどの器具や装置など歴史的な部分は若い世代の人たちには興味深いものになるだろう.
 透析医療に携わる医師,看護師はもとより,腎臓病,透析医療に興味のある初学者にもぜひ座右の書として置いていただきたい.

■ 序   文 ■

 やっとのことで、“私家版 透析用語百科事典”を上梓することができた。これまで書物をつくることには、さほどの抵抗感は感じなかったが、年々気が重くなってきていた。前期高齢者を過ぎてから視力の衰えに加えて、根気力・集中力の低下に悩まされてきたが、やっと完成したことになる。これまで40年以上にわたり透析医療とかかわりをもってきたこと、自分が専門として経験したことをまとめるという意味から是非とも完成したかった書物といえる。それだけ愛着のある書物としたかったわけである。

 本書は私家版としたが、この意味はこれまでの知識を自分なりに解釈した個人的な覚え書き的な意味合いでまとめたということである。本来は、このような学術的な用語を解説するには当該学会が中心になって、多くの専門家が衆議のうえで細かく学会認定のお墨付きで規定するべきものである。しかしながら、専門家による場合には、用語の解説には研究者間の意見の相違があり、百家争鳴、しばしば衆議が一致せず、容易に決着がつかない部分が少なくない。時には烏合の衆としてまとまりがつかなくなりかねないのである。

 平成19(2007)年10月、日本透析医学会学術委員会の透析医学用語作成小委員会において“日本透析医学会透析医学用語集”が発刊された。遡る2005年に用語集作成ワーキンググループ委員会が発足し、当時の委員長は秋澤忠男教授、2006年11月の用語集作成小委員会より秋葉隆教授に変更になったが、筆者も委員の1人として編集作業に従事してきた。同時期に日本腎臓学会にも同じような用語委員会がつくられており、透析医学会の代表として参加し協力してきた経緯がある。このような会合で感じたことは、各々の委員は自分の専門領域における知識から用語に対して相当厳密に把握しているが、専門から離れた領域においては不確かな部分が多々みられるという印象があった。現在では、学問の専門化が進み、個人が担当する領域が狭まってきている。必然的なことであるが、専門家は深く、限られた領域を専門とするため、他領域に関してカバーできる部分は限られてくる。本来は幅広い領域をカバーできれば申し分ないのであるが、不可能であるといえる。

 近年では腎臓病の領域では慢性腎臓病(CKD)の概念が国際的に浸透し、腎臓病に対しての対策が医療者だけでなく一般人に対しても普及してきている。このような国際化への影響により多国間や諸学会間の領域において共通の用語を使用することが必要になってきた。腎臓学会と透析医学会の間においてさえも、用語の概念が異なるようでは情報の伝達に支障をきたすことになりかねない。また各学会においてガイドラインの策定が盛んに行われている。基準となる共通の概念で用語を規定しない限り、ガイドライン作成の混乱をきたすことになりかねない。このような意味から2007年に腎臓学会は17年ぶりに用語集を改訂し、透析医学会もそれに連動して用語集を作成する運びとなり、2007年に刊行することになったわけである。ただし、これらの用語集は単に日本語と国際語としての英語を表記しただけであり、内容としては不完全の誹りを免れない。用語の概念を解説する書物の必要性があるわけである。この点は先に述べたとおりである。

 さて、今回の“私家版 透析用語百科事典”についてであるが、透析医療の領域に関して、先の日本透析医学会の用語集を基本として、理解を深める意味から個人的に興味のある内容に関する用語を加えることにした。説明は初心者にも理解できるようにしたつもりであるが、筆者の情報量の限界から望みどおりには必ずしも到達していないかも知れないし、また誤った解釈や記述をしている点もあるかも知れない。その辺りは、筆者の力量不足としてご容赦願い、誤った部分は遠慮なくご指摘頂ければ幸いである。疑問の用語を調べるだけでなく、思いついた部分を気楽に読めるように図表も多く盛り込んだつもりである。特に、透析医療の黎明期のダイアライザなどの器具や装置など歴史的な部分は若い世代の人たちには興味深いものになると推察する。これと関連して付録の読み物として透析医療の歴史を追加した。

 本書をまとめるにあたり感じたことであるが、学術用語として規定された用語と実際の臨床の場で患者に説明する際の慣用語としての用語のあることである。例えば、ドライウエイトという語は同義語がいくつかあり、どの語を本書に使用すべきか困惑することになった。患者に対してはドライウエイトを使用することが多いが、乾燥体重、基礎体重というと、どうも納得できない。個人的には基準体重が好ましいと考えるので、本書ではそのように表記した。

 重曹透析と重炭酸透析についても同様であり、一般的に重曹透析という語を使用することが多いが、用語集には含まれていないのである。いずれも同義語として認知されているので、誤解されることはあり得ない。

 学問の進歩は日進月歩である。特に透析医療の分野においては、新しい装置や技法、薬剤の開発がなされ、概念の変遷や治療ガイドラインの変更など変化が著しくなると予想される。この結果、新規の用語がつくられてくることになり、従来の用語集では不十分になる。いずれ学会も用語集の追加作業などの見直しを必要とすることになると推測されるが、当面は現在の用語集を基本とすることになろう。

 将来的には、本書をさらに充実した書籍にしたいと考えている。早急に行いたいことは、デジタル時代の現在において利用者の便を考えれば、書籍の電子化である。書物に比べると何よりも格段に検索が容易に行えるのは電子版の特徴である。さらに透析医療にかかわる各種ガイドラインや薬剤使用法あるいは透析合併症の治療の歴史などを掲載した総合的な百科事典ともいえるような書籍にできればと考えている。まだまだ未完成の内容であるが、長い間懸案にしていた書籍を上梓できたことでやっと一息ついた感がある。
 臨床の現場で、あるいは時に応じてページをめくり一読して頂ければ幸いである。わが国の透析医療が今後、どのように変遷するかは知れないが、往時の透析医療に従事した筆者の記念物として、座右に置いて愛読して頂くことを切に希望する。

 2012年6月吉日
 恩師 越川昭三先生、稲田俊雄先生、故 中川成之輔先生に感謝して
 北岡建樹


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