ドミナンス ファクター
−左?右?目耳手足脳半球の優位側を知ることで,
 あなたの学習能力は飛躍的に向上する−




著 者
原  著:Carla Hannaford
邦  訳:杉田 義郎(大阪大学名誉教授)
     守山 敏樹(大阪大学保健センター教授)
邦訳協力:守山 昌代
発行年
2014年 1月
分 類
学校保健/臨床医学一般
仕 様
A5判・198頁
定 価
 (本体 2,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1912-2
特 色 
 本書では, 左/右の脳, 目, 耳, 手, 足の優位性の評価をすることにより, 各々の情報処理の特性を32の優位パターンから探り, その特性に最適な学習スタイルを明確に提示します. 自分自身のパターンを知ることで, 潜在的学習能力を最大限に引き出すよう企図された画期的な一冊です. ストレス下, あるいは新たな学習やチャレンジの際での障壁を理解し, 克服できるよう安全かつ簡単な方法で学習能力の向上を導きます.
 ハイプレッシャー下で常にベストの結果が求められる医師, 医療関係者, 教育者, 自分自身と他者をよりよく理解する必要があるすべての方々にご一読いただきたい, 類いまれなる良書です.

■ 推薦のことば ■

 教師が子どもへの認識と教育方法を改めることで人間性の開花へとつながる

 正直驚かされたし、これまでの認識を改めさせられる内容だ。右脳・左脳の違いや、効き目、利き手などがあることは、誰もがわが事として知ってはいる。本書は、人間がもつ左右対称の器官に「優位性」があり、脳半球・目・耳・手・足の組み合わせで32(2の5乗)のパターンがあって、それが学習能力に優位に働くだけでなく、ストレスにさらされた状況下においては「阻害」として機能するという。
 社会学の分野ではかなり以前から、近代から現代までの学校においては、特定の言語体系や文化や行動様式を色濃く持つために、中産階級以上の家庭出身者の子どもに学業達成度が有利に働く傾向があるという指摘がなされてきた。バーンスタインの社会言語コード理論でも、ブルデューの文化的再生産論でも、中立的で民主的と思われる学校文化において、ある特定の文化階層や階級の者には不利になり、不平等状態が温存されるという問題提起は周知のものとなっている。
 本書は、このような後天的な社会環境の影響による差異ではなく、生物学的に発生の段階から生じる差異に注目し「優位プロファイル」の特徴と課題を明確にしている。そして「いまは学習困難を抱えている」と思われる子どもに対しても、その子の優位プロファイルを見いだすことによって、学校・学級のあり方や教育方法・内容を改善し、その子の能力を伸ばし人間性を開花させていけるのでは、という革新的な問題提起をしている。
 高校生の頃、こんな友人がいたのを思い出す。授業はまじめに聞いている時もあるのだが、多くは窓の外を眺めていて、時折ノートに書き込む程度なのに、テストでは常に学年で10番以内に入る成績をとっていた。他方で、発達障害についてある程度の理解が進むようになった頃、同じく授業中にぼーっと外を見ている女子生徒を、あるカウンセラーは「たぶんあの子はADHD傾向、とくに不注意優勢型(ADD)ですね」と説明してくれた。
 教室は言語能力を高く評価し、視覚学習が過度に強調される空間である。この書では、前述の生徒の行動パターンは、視覚制限(優位脳と優位目が同じ側にある)されているために、目を閉じたり目をそらすことで、耳などの優位な感覚の方で学習情報を得ようとしている動作だと分析される。しかし現実の教室では、そういった仕草をする生徒は不真面目として叱責されることが多い。
 明確な基準ではないが、知能検査では75が一つの判断となって、通常学級か特別支援教育(学級や学校)への就学が勧められることがある。しかし最近では「特別支援学級にも、数値が85とか90といった子どもが、途中で転入してくることが少しずつ増えています」と聞かされた。発達障害に対する認識も深まり、通常学級での生活や学習に困難があって、特別支援学級に行く子が増える傾向にあるのかと感じていた。2012年12月に文部科学省は「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒」が6.5%いると発表した。この数字は、多くの専門家の中でも首肯されているが、その数字は大きすぎるのではないかと、私は疑問を抱えたままだった。
 本書は人間が持つ優位プロファイルの32のパターンのうち、特に不利になっている原因は何か、それぞれにどんな配慮をしたらよいかについて具体的に示している。あるプロファイルを持つ者に対しては、教育制度のあり方や教室での学習方法は何の問題も感じない。教育者は、それが多数派であるがゆえに違和感もなく学業での成功を修めることが可能だと考え、逆にそれができない者を不利に扱う傾向を持っている。しかしそのことが、特定のプロファイルの者(少数派であるがゆえに気づかれにくい)にとっては極めて大きな困難を抱え込ませることになっていくと。
 著者は、いくつもの学校と教室でこのような分析の結果に基づく改善の方法を生み出してきたという。私がもし、小学校や中学校の教師だったら、自分の受け持ちのクラスで、本当に著者の理論と問題提起が正しいのか、どこまで子どもの可能性を伸ばしてやれるか実践してみたいという気持ちが沸いている。

大阪大学大学院教授・人間科学研究科・教育学博士
小野田 正利

● 序  文 ●

 訳者の一人である杉田義郎が、原著となるカーラ・ハンナフォード博士の「ドミナンス ファクター」と出会ったきっかけは、ポール・デニッソン博士著「ブレインジムと私」を通してでした。
 杉田は当時、大学の保健センターに所属し、精神科医として学生・教職員の健康管理・支援、とりわけ精神健康(メンタルヘルス)支援に係わり、学生・教職員のメンタルヘルス不調の予防やよりスムーズな改善を目指す観点から、狭い意味での精神科治療だけでは十分な効果を挙げない事例が少なくないことに気づかされていました。
 メンタルヘルス不調の背景には、ストレス対処の問題に加えて、食、睡眠、運動などの生活習慣の悪化がしばしば見受けられます。ストレス状態にある相談者は適切な改善策を実行することが難しいので、適当な運動を通じてアンバランスな脳機能の壁を打破できないものかと思っていたときに、ポール・デニッソン博士の開発した「ブレインジムィ」を知りました。さらに上述のポール・デニッソン博士の著書の中で、本書を著したカーラ・ハンナフォード博士がポール・デニッソン博士と長年にわたり研究をともにしていることや、本書「ドミナンス ファクター」を著し、その中で、多種多様な優位性パターンを知ることは、個人の学習スタイルについて重要な情報を得ることができるため教職者や両親にとって大変有益であること、さらに、素質に反するのではなく素質に合う学習環境を作り出すことができることを明らかにして、優位性についてわかりやすく丁寧に解説していることを知りました。
 早速、原著を読んでみると、脳の優位性のパターンを理解することで、個人の学習スタイルを特定するのに非常に役立ち、最も効果的な手段と学習環境を提供することができることがわかりました。さらに個人の優位性パターンを認識し、それを尊重する多様性をもつ社会は素晴らしいですが、何よりも人がそれぞれ持っている独自のスタイルを重んじ、その能力を思う存分発揮できれば、私たち皆にとってこの上もなく有益なことであることがわかりました。
 そこで、保健センターの同僚で、内科医、統括産業医、学校保健医でもある守山敏樹氏に原著を読んでもらい、共同で翻訳する意義について相談したところ即座に賛同が得られましたので、分担して翻訳することになりました。さらに心強いことに守山昌代氏にも積極的に翻訳作業に協力していただき、急速に翻訳作業が進みました。
 永井書店の編集部の吉田收一氏には、翻訳の最後の詰めの段階での細々とした作業をかっちりとしていただいたことで本書が世に出るに至ったことを感謝したいと思います。
 本書は、世の中の老若男女、すべての人々が新しいことを学んだり、ストレス状態にあるときに少なからず感じる能力の低下や阻害について、そのメカニズムを人々の異なる優位プロファイル=個性から明らかにするとともに、それらの克服法の手助けもしてくれる画期的な書であります。学校、職場、家庭で多くの方が本書を読み、活用していただくことを強く希望したします。

平成25年11月

訳  者

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