改訂第2版への序文           

JPTEC準拠  

 わが国の交通事故死亡者数は永らく年間1万人前後で推移していたが近年漸減傾向に転じ,ここ数年はその減少の度合いを加速させている.警察庁統計によれば平成14年の死亡者数(受傷24時間以内)は8,326人であった.  
  減少の要因としては車両の安全性向上,道路環境の改善,罰則や指導の強化,ドクターヘリコプターの導入など,多分野における努力が複合的に貢献しているのであろうが,これらのことに加え,平成12年から始まった「PTCJ」と「BTLS」が嵐のごとく全国展開していったことの効果も少なくないと考察する.これらの外傷現場活動研修プログラムの普及がPTD(preventable trauma death)の減少をもたらすことは既に欧米先進諸国の歴史が証明しているからである.  
 「PTCJ」や「BTLS」の普及はわが国の外傷現場の質を大いに向上させたが,両者とも私的な団体による草の根の活動でしかなかった.日本救急医学会はこれらを公的に認知されうる研修プログラムとして統合再編した.それが「JPTEC」である.「JPTEC」は平成15年6月26日に正式に発足した.推進母体である「JPTEC協議会」には日本救急医学会,臨床救急医学会,救急振興財団,日本救急医療財団,全国消防長会,救急救命士養成施設連絡協議会および東京消防庁が参画しており,厚生労働省と総務省消防庁もオブザーバー参加している.  
  「JPTEC」は作成にあたり,メディカルコントロール体制の枠組みの中に位置づけられるものであること,医師向けの外傷研修コースである「JATEC」との整合,の2点に重きがおかれた.  
  「JPTEC」の開始に伴い「PTCJ」はその役割を終えた.活動母体である「プレホスピタル外傷研究会」も平成15年8月24日に,発足の地「いわみ」において解散した.  
  本書の初版は「プレホスピタル外傷研究会」の編集により「PTCJコーステキスト」として上梓したものであるが,コース受講にこだわらず,広くプレホスピタルの関係者に購読して頂き,上梓後2年にして病院前外傷学のスタンダードとして定着した.  
  本書はまだその役割を終えていない.そればかりか,スタンダードとしての役割と責任を今後も担い続けていかなければならないと考えている.  
  以上のような経緯を踏まえ,今般本書を改訂することとした.改訂の目的はもちろん,内容を「JPTEC」に準拠させることにあるが,それに加え,この2年間で得られた新知見や初版に対するご批判を勘案した修正や追補を行った.  
  改訂にあたり「病院前救護」という用語を廃し,「病院前医療」に統一したことを特筆する.「救急救命士」は「医療職」と法に規定されている.さらに現在全国で進められているメディカルコントロール体制の整備によって,「現場における観察・処置がまぎれもなく医療活動である」との位置づけが今後一層明確になっていくであろう.救急救命士は医療専門職として,現場において医学に裏打ちされた活動を実践し,またその実践を救急現場学の発展へ繋げていく使命を担うべきものである.その救急救命士をリーダーとして展開される現場活動が「医療」でなくしてなんであろう.  
  改訂にあたり初版に引き続いて編集長の高山静氏ならびに山本美恵子氏に多大の御尽力を頂いた.深く感謝する次第である.

平成16年1月                                                 石原 晋