序  文

 本書は「リウマチ・アレルギー性疾患」について,医学生・研修医そして専門医を目指す内科医を対象に,シュミレイションによる症例検討とそこで直面する問題点を考察するというユニークなシリーズの一巻として企画されたものである.臨床医としての力は,教科書を読んだだけではなかなか身に付かないことは周知の事実である.多くの症例にあたり,そこで悩み考えてこそ実際の力がついてくる. 本書はそれをシュミレイション症例によって提供しようとするものである.
  内科の領域の中でリウマチ性疾患とアレルギー性疾患は免疫応答の異常によって引き起こされる疾患群としての特徴を持っている.そこで総論ではそれらを意識しながら,免疫学と臨床を結びつけるように,教科書にない切り口で概説をしていただいた.
  実際のリウマチ性疾患,アレルギー性疾患の診療にあたり,まず診断が重要である.例えば全身性エリテマトーデス1つをとってみても,きわめて多彩な症状を呈し,どの症例も簡単に診断ができるわけではない.類似の疾患も多く存在する.そして多彩な臓器がおかされるのでそれを的確に診断しなければならない.診断の後,それぞれの病態に応じた治療法を選択し,その反応をモニターしながら寛解導入,維持療法へと持って行く.その際の副作用のチェックとその対策も重要である.全身性エリテマトーデスが診療できたら一人前の内科医であると言われる所以である.
  しかし従来は,免疫が関与する疾患は診断に至る道筋は多岐にわたり複雑であるが,治療法となるとステロイド薬と免疫抑制療剤がほとんどで,副作用も含め問題点が多く,無力感を感じる,と言われることも多かった.ところが数年程前から,膠原病・リウマチ性疾患は最も刺激的で魅力に満ちた臨床領域の1つだと言われるようになってきている.それは免疫に関与する多くの分子が明らかになり,それに対するモノクローナル抗体を中心とした生物学的製剤と言われる分子標的療法が次々に開発されつつあるからである.我が国での現時点で使用可能な生物学的製剤は腫瘍壊死因子(TNF)を標的としたものだけであるが,欧米で治験中のものが相当数に及んでいる.免疫現象に関わる分子に関する知見はこれからさらに増えると考えられる.すなわち近い将来,アレルギー性疾患を含めて免疫が関与する疾患では,診断を確実に行いさらに病態を把握した上で,どのような分子を標的とする治療を実施するかということを考えなければならない時代に突入すると思われる.
  本書ではこのような「リウマチ・アレルギー性疾患」について,各疾患の中から代表的な状況をシュミレイションした.基本的な臨床力の向上にお役に立てば幸いである.

 

2005年4月 山 本 一 彦